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赤いえり巻き
あかいえりまき |
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作品ID | 52608 |
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著者 | 小川 未明 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「定本小川未明童話全集 7」 講談社 1977(昭和52)年5月10日 |
初出 | 「童話研究」1928(昭和3)年9月 |
入力者 | 特定非営利活動法人はるかぜ |
校正者 | きゅうり |
公開 / 更新 | 2019-10-29 / 2019-09-27 |
長さの目安 | 約 8 ページ(500字/頁で計算) |
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お花が、東京へ奉公にくるときに、姉さんはなにを妹に買ってやろうかと考えました。二人は遠く離れてしまわなければなりません。お花は、まだ見ないにぎやかな、美しいものや、楽しいことのたくさんある都へゆくことは、なんとなくうれしかったけれど、子供の時分から、親しんだ、林や、野や、自分の村に別れることが悲しかったのです。
姉は、かつて、自分も一度、都へいってみたいと心にあこがれたことがありました。しかし、ついに出る機会がなくてすぎてしまいました。そして、もう奉公に出るには、あまり年をとってしまったので、自分は、村に残って圃に出て、くわをとって働くことにいたしました。
「なにを妹に、買ってやったらいいだろう。」
姉は、ひとりで働きながら思ったのです。
たとえ、妹は、華やかな都へゆくのにしろ、家を離れるということは、姉にはさびしいことでした。そして知らぬところへいって、遠くみんなから別れて、一人で生活するということは、どんなにか、心細いことであろうと思われると、妹がかわいそうになりました。
「せめて、いつまでも妹の身につくものを買ってやりたい。」と、姉は思いました。
このとき、そばの林の枝にとまって、赤いいすかが鳴いていました。もう、秋もふけていました。林をおとずれる風は荒く、空の雲ゆきは早かった。そして、ところどころに、青ガラスのような冴えた色が見えたのです。
姉は、この秋から、冬にかけてくる小鳥をめずらしそうに見ているうちに、ふと、心に浮かんだのは、この赤い鳥の毛のような、真っ赤な色のえり巻きを妹に買ってやろうということでした。東京は、雪は、あまりないが、冬は風が寒いと聞いている。外へ用事に出かけるのにも、えり巻きがなくてはならないだろう。赤いえり巻きを買ってやったら、妹も、さぞ喜ぶにちがいないと考えました。
姉は、町へ出ました。そして、洋品店で、赤いえり巻きを買って家に帰り、それを妹に与えたのであります。
「まあ、きれいなえり巻きだこと。」といって、妹は目をみはりました。
「私は、考えたのだよ、東京のステーションに降りたとき、この真っ赤なえり巻きをしていったら、迎えに出てくださる方に、おまえだということがわかるだろうと思って……。それに、この赤い色は、悪い色でないと思ったのだから……。」と、姉はいいました。
* * * * *
お花が、上野駅へ着いたときに、彼女が心配したほどのこともなく、すぐに、出迎えにきていた奥さまや、坊ちゃんたちの目にとまったのです。そのはずで、赤いえり巻きが、たくさん汽車から降りた人たちの間でも、目立ったからでした。ちょうど、朝日の光は、繁華な街の建物のいただきを越して、プラットホームに流れていましたが、そこへ、日に焼けた赤い顔の少女が、真っ赤なえり巻きをして歩いてきたので、赤い金魚か赤い着物をき…