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お母さんのかんざし
おかあさんのかんざし
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 7」 講談社
1977(昭和52)年5月10日
初出「童話研究」1929(昭和4)年7月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者きゅうり
公開 / 更新2020-04-26 / 2020-04-28
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 あるところに、母と少年とがさびしく暮らしていました。
 あわれな母は、貧しかったから、その身になんの飾りというものをつけていなかったけれど、頭の髪に、青い珠のついているかんざしをさしていました。少年は、そのお母さんのかんざしを見ることが大好きでした。なぜなら、自分の顔が、小さく、どんよりと深い水のように、うるんだ珠の上にうつったばかりでなく、ときに、おばあさんの顔も、またあちらの遠い景色も、うつって見えるような気がしたからです。
 この、昔からあったかんざしは、死んだおばあさんが、お母さんに遺していった、形見でありました。だから、お母さんが、それを大事にしていたのに、無理はありません。
 ある日、行商人が、村へはいってきました。黒いふろしきに、箱を包んだのをせおっていました。箱の中には、女のほしそうな、指輪や、かんざしや、いろいろのものがはいっていました。
 男は母親のかんざしに目をつけて、
「いいかんざしをおさしですね。」といいました。
 母親は、恥ずかしそうに、うつむいて、
「昔ふうで、こんなもの、いいものでありません。」と、答えました。
「私に、売ってくださらないですか?」と、男はいいました。
「おばあさんの形見ですから、まあ、持っていましょう。」
「なんなら、ここにある品と換えてくださらないですか。ここには、さんごもあります。べっこうのくしもあります。ほれ、こんなにいい根がけもあります。昔ふうのガラス珠のかんざしより、いくら、気がきいているかしれませんよ。」と、男はすすめました。
 母親は、流行の品がほしかったけれど、がまんをしました。
「考えておきます。」と、答えました。
「また、こんどきますから、よく考えなさっておいてください。」と、行商人は、くれぐれもいって出てゆきました。
 母は、めったに外へも出ず、家にいて、針仕事をしていました。少年は、そばで、本を読んだり、算術のけいこをしたりしました。母は仕事ができあがると、それを持って、町へゆきました。少年も後についていったのであります。あるとき、途中で、学校友だちのAくんのおばあさんに、出あいました。
「お母さんと、おつかいですか?」と、おばあさんは、少年を知っているので、にっこりと笑って、声をかけられました。少年も、母親も、おばあさんにあいさつをしました。
 その翌日、少年が、Aくんの家に遊びにゆくと、おばあさんが、
「あなたのお母さんは、いいかんざしをおさしですね。」といわれました。
「あれは、死んだおばあさんの形見なんです。」と、少年はいいました。
「そうでしょう。昔のものでなければ、あんないいものはありません。」と、Aくんのおばあさんは、感心されました。
 Aくんの家で遊んで、少年は、帰り道にAくんのおばあさんのいわれたことを思い出して、
「どうして、昔のものは、そういいのだろう。きっと、…

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