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おさくの話
おさくのはなし
作品ID52621
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 6」 講談社
1977(昭和52)年4月10日
初出「教育研究」1929(昭和4)年10月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者栗田美恵子
公開 / 更新2019-10-12 / 2020-11-01
長さの目安約 10 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 おさくは、貧しい家に生まれましたから、小学校を卒業すると、すぐに、奉公に出なければなりませんでした。
「なに、私が、いいところへ世話をしてやる。」と、植木屋のおじいさんはいいました。
 彼女の父親は、とうに死んでしまって、あわれな母親と暮らしてきました。おじいさんは、しんせつな人であって、なにかに、二人を気にかけてくれたのであります。
「工場へゆくよりか、夜は、勉強でもさしてくださる、どこかしんせつのお家がいいと、おじいさんは心配していてくださるのだから、見つかって、そのお家へいったら、よくいいつけを守って、働かなけりゃならないよ。」と、お母さんは、いいました。
「お母さん、きっと、よく働きます。どうか、心配なさらんでください。」と、おさくは、目に、いっぱい涙をためて答えました。
「ああ、おまえが、その決心なら、お母さんは心配しません。」
 こう、母親は、いったものの、これまで長い間、二人は、むつまじく、朝晩、顔を見合って、暮らしてきたのに、この後は、べつべつに生活しなければならぬと知ると、なんとなくさびしくなりました。しかし、どうせ、娘は、一度は世の中に出なければならない運命であると考えると、こんなに気を弱くしてはしかたがないと、強いて、元気をつくっていました。
 それから、間のないことであります。
「おさくちゃんのいく、いいところが見つかったぞ。」といって、おじいさんは、ある日の晩方、機嫌よく、外からはいってきました。
「まあ、おじいさん、それは、どうもありがとうございます。」と、母親は、いって、おじいさんを迎えましたが、うれしいうちにも、いよいよかわいい娘に別れなければならぬ日がきたかと思うと、悲しさが、胸いっぱいになりました。しかし、それを押さえつけて、顔にあらわすまいとして、母親は、にこにこ笑いながら、
「ほんとうに、いろいろ心配くださいまして、すみません。」といって、おじいさんの話に、耳を傾けたのです。
 おさくは、だまって、母親と並んですわり、自分の世話されてゆくところは、どんなところだろう……。自分みたいなものにつとまるかしらん? なんとなく、うれしいような、悲しいような気持ちを抱いて、目をかがやかしながら、おじいさんの顔を見つめていました。
「あちらさまは、もののわかったお方だから、正直につとめさえすれば、長く、めんどうをみてくださるにちがいない。べつに、したくはいらない、ほんの身のまわりのものだけ、まとめておきなさい。明日の朝、わしが迎えにきて、連れてゆくから……。」と、おじいさんは、ねんごろに告げました。
 やがて、おじいさんは、帰りました。その晩は、母親と娘が、名残惜しそうに、語り明かしたのでした。
 おじいさんは、約束どおり、朝になると、じきにやってきました。そこで、おもしろいことをいって、二人を笑わせたり、元気づけたりしました。…

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