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おばあさんとツェッペリン
おばあさんとツェッペリン
作品ID52622
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 6」 講談社
1977(昭和52)年4月10日
初出「童話文学」1930(昭和5)年1月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者へくしん
公開 / 更新2022-04-07 / 2022-03-27
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 おばあさんは、まだ、若い時分に、なにかの雑誌についている口絵で見た、軽気球の空に上がっている姿を、いつまでも忘れることができませんでした。
 青い色が、ところどころに出て、雲の乱れた空を高く、その軽気球は、風船球を飛ばしたように、上がっていました。それには、人が乗っていて、下方にたむろしている敵軍のようすを偵察していたのであります。すると、これを射落そうと、敵の騎兵が軽気球を目がけて、発砲していました。その白い煙が輪を巻いているのすら、記憶に残っています。
 これは、☆普仏戦争の画報でありました。いっしょに、この絵を見たおじいさんは、いいました。もとより、おじいさんも若かったのです。
「いんまに、きっと、人間が、鳥のように、空を飛ぶようになるぞ。」
「それは、いつのことでしょうか?」と、おばあさんは聞きました。
「五十年や、百年は後のことであろう。そうなると、この太陽の下をかすめて、人間の頭の上を飛ぶのだよ。そして、鉄砲を打ったり、爆烈弾を落とすようになる。そうなれば、戦争は、なくなってしまうかもしれないが、なんといっても怖ろしいことだ。あまり世の中がこういう方面にばかり発達すると、神も、仏もなくなってしまう。まあ、私たちは、そんな時分まで生きていないからいいが、だれでも、分際を知らないほど、怖ろしいことはない。」
「もし、そんな時代になりましたら、どんなでしょうか?」
「さあ、そんなことは考えつかないが、人間は、道徳などというものをまったく忘れて、強いもの勝ちとなり、国と国の約束などというものはなくなってしまうだろう……。私は、そんな時代を見たいとは思わないよ。」
 こう、おじいさんはいわれた。
 おばあさんは、おじいさんのいわれたことは、みんな正しいと信じていました。そして、なるほど、それにちがいないと感じたのです。
 平常から、達者だったおじいさんは、まだ、そんなに年寄りでもなかったのに、とつぜん、中風にかかって死にました。日ごろ、おじいさんの亡くなられるときは、やがて自分も死ぬときだと思っていましたが、おばあさんは、そのときから、すでに、十年あまりも生きながらえてきました。
 息子や、孫たちは、おばあさんに対して、しんせつでありました。
「おばあさん、飛行機がとんでいますよ。ここへ出て、ごらんなさい。」と、孫たちは、おばあさんにいいました。
「そうかい、飛行機も、もう、たびたび見たから、あまり見たくもない。あんなものに、なぜ人間は乗るのか、また落ちなければいいがのう。」と、おばあさんは、うつむきながらいわれました。
 子供たちは、おばあさんのいうことを聞いて、わけもなくおかしがりました。
「おばあさん、飛行機は、汽船よりも、汽車よりも速いんですよ。あれに乗れば、一日で、北海道から、九州までも飛べるんです。これからの戦争は、飛行機になりますよ。」
 …

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