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金が出ずに、なしの産まれた話
きんがでずに、なしのうまれたはなし
作品ID52626
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 7」 講談社
1977(昭和52)年5月10日
初出「童話文学」1930(昭和5)年6月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者きゅうり
公開 / 更新2020-05-24 / 2020-04-28
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 ある金持ちが、毎日、座敷にすわって、あちらの山を見ていますと、そのうちに、
「なにか、あの山から、宝でも出ないものかなあ。」というような空想にふけりました。
 その山というのは、あまり高くはなかったが、形がいかにもよかったのです。
 ちょうど、そのころ、旅の技師が、この村を通って、
「この山には、銅がありそうだ。」といったといううわさを金持ちはききこみました。
「やはり虫が知らせたのだ。毎日、自分はあの山を見ていると、なにか宝がありそうな気がしてならなかった。」
 ある日、金持ちは、金づちを腰にさして、山へ出かけてゆきました。そして、山の中に、頭を出している石を、コチン! と打っては、欠いてみました。すると、ぴかっとして日の光に、金色にかがやくものがまじっていました。それから、夢中になって、あたりに落ちている石を割ってみたり、拾い上げて、日にさらしてみたりしますと、どれにも、なにかぴかぴかと光るものがはいっていました。
「銅ばかりでなく、金が出るかもしれない。」
 金持ちは、もう頭の中は、宝を掘りあてたときの喜びでいっぱいになって、考え顔をしてもどってまいりました。
 それから後のことです。
「地主さんのまくらもとへ金の仏さまがお立ちになって、山を掘れとおっしゃった……。」とか、
「だんなさまが、お座敷にすわって、あちらを見ていなさると、山の方で、金の仏さまが手招きなさった……。」とか、村にはいろいろの話が持ち上がりました。
 三人の熟練した坑夫が、北の遠い島から、呼ばれることになりました。
「さあ、宝を掘りあてて、大金持ちになるか、貧乏をして、裸になるか、運だめしだ。力のつづくかぎりやってみよう。のるもそるも人間の一生だからな。」
 金持ちは、ついひまなものだから、ちょっとした空想が、大きなことになったので、自分ながらあきれましたが、もう、そのときは、村の人たちもたくさん仕事に雇われて、働いていました。島からきた、三人の坑夫は、めいめいいうことがちがっていました。
「この山には、銅も、銀も、金も、鉄もあるけれど、まだ、年が若い。」と、一人がいいました。
 これを聞いた金持ちは、
「年が若いそうだが、もう、何年ばかりたつと、ちょうどよくなるかな。」とたずねました。しかし、これは、木や、人間のようなものではありません。坑夫は笑いながら、
「五千年から、一万年ばかりですかな。」といいました。金持ちは、頭を振って、
「それじゃ、孫の代の役にもたたない。」と、ため息をついたのです。
「いや、若いことはないだろう。百尺ばかり掘り下げたら、いい鉱脈にぶっつかるような気がするが。」と、一人の坑夫は、自信ありそうにいいました。
 そこで、その事業にかかることになりました。
 いままで、さびしかった村は、急に活気づいて明るくなり、にぎやかになりました。煙突から、黒い煙が上が…

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