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千羽鶴
せんばづる
作品ID52642
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 6」 講談社
1977(昭和52)年4月10日
初出「教育の世紀 4巻7号」教育の世紀社、1916(大正15)年7月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者へくしん
公開 / 更新2022-04-21 / 2022-03-27
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 ある村に人のよいおばあさんがありました。あるとき、お宮の境内を通りかかって、たいへん、そのお宮がさびしく、荒れてしまったのに心づきました。
 むかし、まだおばあさんが、若い娘の時分には、そんなことはなかったのであります。盆には、この境内で、みんなと唄をうたって踊ったこともありました。その時分には、みんなが、よくお詣りにきたものです。
「世の中も末になったとみえる。神さまを大事にしない。もったいないことだ……。」と、おばあさんは、思ったのでした。
 家に帰ってからもおばあさんは、そのことを思っていました。
「おばあさん、つるを折っておくれよ。」と、孫たちが、色紙を持って、おばあさんのところへやってきました。
 おばあさんは、つるを上手に折って、子供たちによくわけてくれたからです。
「よし、よし、折ってやるよ。」と、おばあさんはいいました。しなびた指さきで、目をしょぼしょぼしながら、おばあさんは、赤・青・黄の紙で、いくつも小さなつるを折っていました。そのとき、ふと、千羽鶴を造って、お宮へ捧げたら、自分だけは神さまをありがたく思っている志が通るだろうと考えたのです。
 おばあさんは、孫たちに、幾つも造ってやった後で、念をいれて、神さまに捧げるつるを造りました。それを糸でつないで、お宮の拝殿の扉の格子につるしました。おばあさんは、手を合わせて、拝んで、
「これで、すこしは、にぎやかになった。」といいました。さびしい神さまの目を楽しませることができれば、自分の願いは達すると思ったのであります。
 おばあさんの造って、上げた千羽鶴は、寒い風に吹かれてひらひらとしていました。その夜、おばあさんは、家にいて、お宮の扉に下がった、千羽鶴がどうなったろうと思っていました。
 寝てからのことであります。一羽の白いつるが窓から飛び込んできて、おばあさんに向かっていいました。
「神さまからいいつかってきた、使いのものです。さあ、早く私の脊の上に乗ってください。いいところへ連れていってあげますから。」と、白いつるはいいました。
「おまえは、私が造って、神さまに捧げた千羽鶴の中の白いつるじゃないか?」と、おばあさんは、たずねました。
「そうです。今日は、天気がいいから、ひとおもいにあちらへ駆けていかれます。」
 おばあさんは、つるの脊中に乗りました。夜だと思ったのが、いつか大空を駆けると、空は青々として澄んで、日の光はいっぱいに輝いて、じつにうららかな、いい天気でありました。
 そのうちに、つるは、海の上を渡って、広々とした野原の上へ降りたのであります。
「さあ、ここが極楽というところです。」と、つるは、いいました。
 おばあさんは、話に聞いている極楽とは、だいぶようすが変わっているので、びっくりしました。べつにりっぱな御殿のようなものも、また絵にある天人のようなものも見なかったからで…

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