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船でついた町
ふねでついたまち
作品ID52661
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 6」 講談社
1977(昭和52)年4月10日
初出「国民新聞」1930(昭和5)年1月1日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者栗田美恵子
公開 / 更新2019-03-09 / 2020-11-01
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 たいへんに、金をもうけることの上手な男がおりました。人の気のつかないうちに、安く買っておいて、人気がたつとそれを高く売るというふうでありましたから、金がどんどんたまりました。
 土地でも、品物でも、この男がこうとにらんだものは、みんなそういうふうに値が出たのであります。この男と、こういうことで競争をしたものは、たいてい負けてしまいました。そして、この男は、いつかだれ知らぬものがないほどの大金持ちとなったのであります。
 ある年、たいそう不景気がきたときです。あわれな不具者が、この金持ちの門に立ちました。
「どうぞ、私をご主人にあわせてください。私は、もとあなたの会社に使われたものです。」といいました。
 番頭は、しかたなく、これを主人に伝えました。
「ああそうか、私が出てあおう。」といって、金持ちは、玄関へ出ました。すると、不具者は、
「その後、不幸つづきで、そのうえけがをして、こんなびっこになってしまいました。働くにも、働きようがありません。どうぞ、めぐんでください。」と、訴えました。
 金がたまると、だれでも、やさしくなるものです。ことに、この金持ちは、涙もろい性質でありましたから、
「それは、困るだろう。」といって、めぐんでやりました。あわれな男は、喜んで帰ってゆきました。
 すると、翌日は、別の不具者がやってきました。
「私は、片腕をなくなしました。働くにも働きようがありません。どうぞ、おめぐみください。」と、訴えました。
 金持ちは、なるほど、それにちがいないと考えましたから、いくらかめぐんでやりました。
 一日に、二人や、三人は、金持ちにとって、なんでもなかったけれど、いつしか、このうわさがひろまるにつれて、十人、二十人と、毎日金持ちの門の前には、もらいのものが黒い山を築きました。
 不具者ばかりでない、なかには、働けそうな若者もありました。そういうものには、金持ちが、きびしくただしますと、内臓に病気があったり、また探しても仕事がなかったり、聞けば、いろいろ同情すべき境遇でありまして、一人に与えて、一人に断るということができなかったので、しかたなく金持ちは、みんなに金を分けてやりました。
 しかし、限りなく、毎日毎日、あわれな人たちがもらいにくるので、金持ちは、まったくやりきれなくなってしまいました。
「これは、どうしたらいいだろう、俺の力で、困ったものをみんな養ってゆくということはできない。またそんな理由もないのだ……。」
 こう、金持ちは考えると、いっそ、みんなを断ってしまったがいいと思いましたから、翌日から、門の扉を堅く閉めたので、だれも中へはいれませんでした。
 こうなると、いままで、救ってもらったものが、まったく食べられなくなって、餓死したものもあります。世間では、急に、金持ちの冷淡を責めました。新聞は、金持ちに、なんで、困ったものを…

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