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ふるさと
ふるさと
作品ID52662
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 6」 講談社
1977(昭和52)年4月10日
初出「ふるさと 47巻2号」小学校、1929(昭和4)年5月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者栗田美恵子
公開 / 更新2019-11-29 / 2020-11-01
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 北の故郷を出るときに、二羽の小鳥は、どこへいっても、けっして、ふたりは、はなればなれにならず、たがいに助け合おうと誓いました。すみなれた林や、山や、河や、野原を見捨て、知らぬ他国へ出ることは、これらの小鳥にとっても、冒険にちがいなかったからです。そして、ふたりは、春まだ早い、風の寒い日に高い山を越えました。
 いつも、ほんのりとうす紅く、なつかしく見えた、山のかなたの国にきてみると、もはや、そこには、花が咲いていました。吹く風もあたたかく、いろいろの草は、すでに丘に、野原に、緑色に萌えていました。
「こんなに、いい国のあることを、なんで、いままで知らなかったのだろう。」と、ふたりは花の咲きにおっている木にとまったときに、顔を見合って語ったのです。
「なぜ、昔から、あの山を越すといけないといったのだろう。」と、一羽の小鳥が、ふるさとにいる時分に、年とった鳥たちの注意したことに、不思議を抱きました。
「それは、こういうわけなんだ、……もし、いいといったら、私たちはまだ遠い旅がされないのに、早く出かけるから、あの山のかなたは、怖ろしいところだ。あちらへいくと、もう、二度とここへは、帰られないといったにちがいない……。」と、ほかの一羽の小鳥は、いいました。
「ほんとうに、そうなのだ。いつも、みんなが、この国へきて、すめばいいのにな。」
 ふたりは、年とった鳥たちが、あのさびしい野原や、風の寒い林の中を、いちばんいいと思っているのを笑いました。
 それから、あちらの木かげ、こちらの林と、二羽の小鳥は、思い、思いに、飛びまわって、唄をうたっていました。こうするうちに、彼らはだんだんこの土地に慣れたのであります。
「もっと、あちらへいこうよ。」と、一羽が、いいました。
「あまり、人間のたくさんいるところへいくと、あぶなくないか?」
「人間の姿を見たら、すぐに逃げればいいのだ。」
 ふたりは、こういましめあって、里の方へ出かけてゆきました。田畑は、どこを見てもきれいに耕されていました。そして、うす紅や、黄色の花や、紅い花などが咲いて、また、北の自分たちが生まれた地方では見なかったような、美しいちょうが、ひらひらと誇らしげに花の上を飛んでいたのであります。
「あんな、美しいちょうでさえ、平気に飛んでいるじゃないか。」と、一羽の鳥は、一本、野中に立っている木にとまったときに、友だちをかえりみて、いいました。
「きれいなばかりが、あぶないのでないだろう……。ちょうは、唄をうたわない。けれど、私たちはさえずることもできるから、あぶないと思うのだ。」と、一羽の小鳥は、考え顔をして、答えたのでした。
「そんなら、ふたりは、だまっていることだ。」
「そうだ。だまっていよう。」
 二羽の小鳥は、鳴かないことに、相談しました。そして、町の近くまで飛んできました。北のふるさとでは、見られない…

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