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雪くる前の高原の話
ゆきくるまえのこうげんのはなし
作品ID52668
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 6」 講談社
1977(昭和52)年4月10日
初出「童話」コドモ社、1926(大正15)年1月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者へくしん
公開 / 更新2022-06-12 / 2022-05-27
長さの目安約 11 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 それは、険しい山のふもとの荒野のできごとであります。
 山からは、石炭が掘られました。それをトロッコに載せて、日に幾たびということなく高い山から、ふもとの方へ運んできたのであります。ゴロッ、ゴロッ、ゴーという音をたてて石炭を載せた車は、レールの上をすべりながら走ってゆきました。そのたびに、箱の中にはいっている石炭は、美しい歯を光らしておもしろそうに笑っていました。
「私たちは、あの暗い、寒い、穴の中から出されて、この明るい世界へきた。目にうつるものは、なにひとつとして珍しくないものはない。これから、どこへ送られるだろう?」と、同じような姿をした石炭は語り合っていました。
 だんまり箱は、これに対してなんとも答えません。むしろ、それについて知らないといったほうがいいでありましょう。しかし、レールは、そのことをよく知っていました。なぜなら、自分の造られた工場の中には、たくさんの石炭を見て知っているからであります。いま、石炭がゆく先をみんなで話し合っているのを聞くと、ひとつ喜ばしてやろうとレールは思いました。
「あなたがたは、これから、にぎやかな街へゆくのですよ。そして、働くのです……。」といいました。
 石炭は、ふいにレールがそういったので、輝く目をみはりました。
「私たちは、工場へゆくんですか? そんなようなことは山にいる時分から聞いていました。それにしても、なるたけ、遠いところへ送られてゆきたいものですね。いろいろな珍しいものを、できるだけ多く見たいと思います。それから私たちは、どうなるでしょうか……。知ってはいられませんか?」と、石炭は、たずねました。
 レールは、考えていたが、
「あなたがたが、真っ赤な顔をして働いていなされたのを見ました。そのうちに、見えなくなりました。なんでも、つぎから、つぎへと、空へ昇ってゆかれたということです。考えると、あなたがたの一生ほどいろいろと経験なさるものはありますまい。私たちは、永久に、このままで動くことさえできないのであります。」と、レールはいいました。
 石炭は、トロッコに揺られながら考え顔をしていました。なんとなく、すべてをほんとうに信ずることができないからでした。
 そのとき、かたわらの赤く色づいた、つたの葉の上に、一ぴきのはちが休もうとして止まっていましたが、トロッコの音がして眠れなかったので、不平をいっていました。
「なんというやかましい音だろう。びっくりするじゃないか。」と、はちはいいました。
「安心して止まっていらっしゃい。天気がこう悪くては、どこへもいかれないでありましょう。野原はさびしいにちがいない。遅咲きのりんどうの花も、もう枯れた時分です。そして、あの空の雲ゆきの早いことをごらんなさい。天気のよくなるまでここに止まっていて、太陽が出てあたたかになったら、里の方をさして飛んでいらっしゃい。」と、つ…

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