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ガラス窓の河骨
ガラスまどのこうほね
作品ID52672
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 6」 講談社
1977(昭和52)年4月10日
初出「赤い鳥」1928(昭和3)年7月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者へくしん
公開 / 更新2021-12-14 / 2021-11-27
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 ある草花屋の店さきに、河骨が、小さな鉢の中にはいって、ガラス戸の内側にかざられていました。街の中で、こうした片いなかの水辺にあるような緑色の草を見るのは、めずらしいといわなければなりません。
 しかし、河骨にとっては、こうして置かれることは、迷或このうえもなかったのです。すがすがした空気と、自由の世界にみなぎる、日光を受けることから、さえぎられて、毎日、ここで見るものは、街の砂ぼこりの煙と、ざわざわ歩く人間の姿と、自動車と、電車の外になかったからでした。
「あなたがたは、心配ですね。これからの売れ口を考えると、まったく、どこへいくか、わからないのですものね。私などは、もう花の時分は終わったから、だれも、買ってくれ手はありません。まあ、このすみで半年眠るんです。あの、暖かな海の潮が押しよせてきた、がけの上で、心持ちのいい風に吹かれて、うつりうつりと夢を見ていたときのことを考えると、くらべものになりませんが、どうせ私の一生というものは、眠るようにできているのですから、不承もなりますが、けしさんや、河骨さんなどには、この生活は、さぞ苦しいことだとお察しします。はやくいい売れ口があって、いいお暮らしをなさるように祈っていますよ。」と、南洋産のらんがいいました。
 赤いけしの花は、さまで、ここにいることを苦労と感じないように、いつも、お化粧に身をやつしてそわそわしていましたが、いま、らんに同情されるとなんとなく、自分の誇りを傷つけられたと思って、ほおを染めながら、
「わたしなどは、はたけにいる時分から、人間がみんな目をつけていました。あなたばかりは、どこへいっても大事にされますよと、ちょうがよくきていったものです。わたしは、いく先のことなどは、ちっとも心配していないのです。」と答えました。
 ひとり、河骨は、ほんとうに、いつまで、こんなところにいるのだろう、小さな鉢の水は、なまぬるくて、夜霧にはぬれることもなければ、いなかの沼にいたときのように、水の上を渡ってくるひやひやとした風に吹かれもしないので、いつも頭が重いのをなげいていました。
 なるほど、らんは、平気で眠っています。そして、けしの花は、晩方、じょうろで水をかけられると、いっそう、そわそわして、あかりのついた下で、しなをつくっていたのでした。
「まあ、このけしの花のきれいなこと。」といって、散歩している、若い夫婦が、店さきに立ち止まると、けしの花を見ました。
「ねえ、これを買っていきましょうよ。」
「持って帰ると、じきに散ってしまうけれど、買っていこうか。」
 二人は、こんなことを話し合って、店へはいると、けしの花を買いました。
 ほんとうに、けしの花が、自分を自慢したごとく、すぐに売れ口はありました。けしの去った後で、らんが、ひとり言のように、
「あんな人間にかぎって、花を大事にするものでない。だれでも、…

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