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古川ロッパ昭和日記
ふるかわロッパしょうわにっき
作品ID52711
副題24 昭和三十三年
24 しょうわさんじゅうさんねん
著者古川 緑波
文字遣い新字旧仮名
底本 「古川ロッパ昭和日記〈晩年篇〉 新装版」 晶文社
2007(平成19)年5月25日
入力者門田裕志
校正者きゅうり
公開 / 更新2019-08-13 / 2019-07-30
長さの目安約 139 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

昭和三十三年一月






一月一日(水曜)晴
 九時すぎに起され、入浴。PHもなき、静けき正月なり。金がないだけが、哀れだが。朝食、母上も離れから来られる。屠蘇と雑煮、何が正月だい! と叫びたき心地。年賀はがき、何百枚か着く。出さないところからのも大分あるので、先づは、初書きは、年賀状から始めよう。床へ入り、年賀はがきの残りを書き出す。女房は風邪で熱ありだし、年賀客といっては、津田・松本・影山・小島がかほを出した位のもので、わが家の正月は静かなり。もうそろ/\暗くなりかけてゐる。飲んで寝るんですなあ。六時半、茶の間へ。清のガールフレンド今木さんが来てゝ食事を共にする。サントリータンサン、登起波(米沢)の牛肉粕漬、ローストポーク。すし屋からのこはだと卵のみ食って、八時半には天上。アド三服み寝る。あゝ寝るが何よりのたのしみなり。今朝トニー谷より年賀電話あり、風呂へ入ってゝ出られず、女房が出た。


一月二日(木曜)雨後晴
 よく眠り、十時に起される。風と雨で寒い。Hなく、めでたし。雑煮は餅二つ、汁三杯。女房、風邪をこじらせ、鼻の中が腫れて苦しみ居る。この数日、疲労激し。五十五歳、潔く年とっちまへ、停年の年となりて此の苦労かな。今日は、大蔵邸か近江邸へ年賀に出かけたいのだが、天気がわるいな。四時近くか、津田来る。タクシー、五反田に近き大蔵邸へ行く。今日不在と判ってゐるが名刺だけ置く。その足で、常盤松の近江俊郎邸へ。新築の立派な家である。近江夫妻と挨拶し、映画ばなし色々。新東宝の日本国中廻る珍道中もの、僕を主人公にといふ企画ときいてゐたが、これが変っちまったらしき様子、心細し。もうぢき「天城山心中」が始まるが、これはもう金貰っちまったんだから、今月のアテってものがない。心は浮かない。「麻雀しよう」と持ちかけると、近江もやりたいらしく諸方へ電話、スティルの谷がつかまり一室で開戦。近江・谷・津田で、此のメムバーぢゃあ面白い筈がない。電気も暗し、実につまらなくやる。最中に年始客も入れ代り来り、落つかない。五回やり、五十円の負であった。了ると、ブラックアンドホワイトがあるので、そいつをストレートで飲み、ひとりいゝ心持になり、愚談猥談。十時すぎにタクシー帰宅。床へ入り、アド三。
 新東宝大蔵社長が、このシナリオ読めと言って、弟の近江俊郎に渡したのが「金語楼の成金王」、近江は読むと、あんまりひどいので、社長に、「こんなものは、シナリオぢゃない」と言ったら、「お前、他の監督ならクビにするところだ、あれは俺が書いたんだぞ」


一月五日(日曜)晴
 夜半二時、ポッカリ眼が覚め、小便済ませて又寝ようとすると、寝られない。色々なこと考へ、めいる。今年は一体、何うなるのだ。ラヂオやテレビもなく、かなしき寝正月だったが、新東宝にばかり忠節を尽したところで、何うなるものか判らない。俺も、…

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