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みじめな夜
みじめなよる
作品ID52727
著者牧野 信一
文字遣い新字旧仮名
底本 「牧野信一全集第一巻」 筑摩書房
2002(平成14)年8月20日
初出「十三人 第三巻第四号(四月号)」十三人社、1921(大正10)年4月1日
入力者宮元淳一
校正者門田裕志
公開 / 更新2011-07-17 / 2014-09-16
長さの目安約 1 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


 ふと、思つた――。
 秋田の聯隊にゐる柏は今何をしてゐるだらうか、京都に行つてゐる松村は? 下総の取手に行つてゐる宮広は?
 時計を見たら三時半(夜)だつた。
「グツスリと眠つてゐるだらう。」と思つた。と、眠つてゐるだらう、と思つたことが悪いやうな気がした。
 取手へ行かう行かう、是非行つて見たい、などと上調子のやうな口調で自ら喋つておきながら……(下村が行つてゐるときもさうだつた、下村は取手を引上げて来て、もう幾月になるだらう、その間に彼は病気した、その時も自分は訪れ損つた。手紙を書いたのを破いて電車道まで出掛けて、また室へ引き返した。)……葉書も出さない。兵営の柏にも定めし冷い日(それは自分勝手の想像だが)を送つてゐるだらう柏にも……センチメタルになつた。……初め、他人を対照にして自らを不快に思つてゐるうちに間もなく他人の幻は悉く消えて自らだけが不快になつた。……「――」
 その次に「それほどでもないな。」と思つた。
 火鉢の灰に気味の悪い程、巻煙草の口が上を向いてゐた。……。
 自分は「歌」のことを考へてゐた。



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