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作品ID52744
著者牧野 信一
文字遣い新字旧仮名
底本 「牧野信一全集第二巻」 筑摩書房
2002(平成14)年3月24日
初出「文章倶楽部 第十巻第三号(三月号)」新潮社、1925(大正14)年3月1日
入力者宮元淳一
校正者門田裕志
公開 / 更新2011-07-21 / 2014-09-16
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


 本誌の二月号に、君が書いた、僕に関するスケツチ文は、稀に見る非常識な、失敬な文章である。
 僕は、在学中適齢に達したが、猶予願ひすらせずに堂々と検査をうけたものだ。君は、どんなつもりで書いたのかも知れないが、縦令一言半句でも、僕の国民としての名誉を傷けるやうな文句を、疎かに使はれては迷惑千万だ。僕は、忠良なる日本国民である。僕は、君の云はれるやうな「ヱビス」のやうな強さはもたないが、不幸にして痩躯こそ恵まれてゐるが、愛国的情熱をもつ青年である。
 十一貫たらず、などゝ好くも君は僕の目方などが解つたものだ、君は、何時僕の目方を計つたことがあるのだ。
 また、ロクでもない観察の眼で僕の家庭などをスケッチされては困る。君などに僕の小説と生活とを混同されてはやりきれない。あんな風に書いたら僕が、喜ぶとでも思ふのか、喝!
「……られねエ」
 そんな言葉を僕は、普段用ひることはない。また、当時三歳の僕の幼児が「キヤッキヤッと群がる悪童と遊び戯れる」筈がない。そんなことを君から告げられて何で僕が、晴れやかに笑つたりするものか。兎も角あれは徹頭徹尾不愉快極まる悪文だ。一体君は、誰なのか? まさか以前僕の家に遊びに来たことのあるS・I君ではあるまいな? S・I君なら、僕はもう君とは断然絶交だ。僕は、家庭にたち入られることは何とも思はないが、君のやうな文章を書く人とは以後一分間でも言葉を交へるのは厭だ。



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