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昭和五年に発表せる創作・評論に就て
しょうわごねんにはっぴょうせるそうさく・ひょうろんについて
作品ID52793
副題「吊籠と月光と」その他
「つるべとげっこうと」そのた
著者牧野 信一
文字遣い新字旧仮名
底本 「牧野信一全集第四巻」 筑摩書房
2002(平成14)年6月20日
初出「新潮 第二十七巻第十二号(十二月号)」新潮社、1930(昭和5)年12月1日
入力者宮元淳一
校正者門田裕志
公開 / 更新2011-09-25 / 2016-05-09
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


「僕は哲学と芸術の分岐点に衝突して自由を欠いた頭を持てあました。息苦しく、悩ましく、砂漠に道を失ふたまま、ただぼんやりと空を眺めてゐるより他に始末のない姿を保ちつゞけた。」
 これは今年のはじめに発表された「吊籠と月光と」の冒頭の言葉で、そして私はこの作と「ラガド大学参観記」といふ作品とで、さうした砂漠の世界から駈け出して、不思議な原始生活の中に翼を拡げて、ある生活を見出すまでのことを書いたのであるが、「吊籠と月光と」は、そんな前後のことなどは別として、それまでの自分の作品のうちで最も好意が持てるものであるやうな気がしてゐる、現在――。
 そして私は春のはじめに、東京に移ると間もなく「歌へる日まで」と称する作品にとりかかつた。これも四十五六枚の短篇であり、書き終るまで案外の日数を要し、久し振りの慣れぬ東京生活で困つたことばかりが多かつたが、作そのものに対しては珍らしく屈託のない明るさで、歌ふが如く、自由に、愉快に処理することが出来た。「吊籠と月光と」の、あの冒頭の言葉の後に展けた、広漠たる、明るい山と原野と森のある世界を、馬に乗つて駈け廻る自分の姿は、その心持は、村を棄てて、都に出ても続いて私に健やかな夢を与へた。私は、幾つかの随筆も書き小篇も書いた。そして「R漁場と都の酒場で」「変装綺譚」「ダイアナの馬」などといふものを書いた。――要するに、今年の私は、あれまでつづいてゐたあんな砂漠を通り越して、まだ跣足のままである! といふ程に過ぎない。私は、生活が芸術の反影だと思つた。



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