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周一と空気銃とハーモニカ
しゅういちとくうきじゅうとハーモニカ
作品ID52916
著者牧野 信一
文字遣い新字旧仮名
底本 「牧野信一全集第一巻」 筑摩書房
2002(平成14)年8月20日
初出「少年 第二三六号(四月号)」時事新報社、1923(大正12)年3月8日
入力者宮元淳一
校正者門田裕志
公開 / 更新2011-06-24 / 2014-09-16
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)

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本文より



 周一は、今年のお年玉に叔父さんから空気銃を貰つた。去年から欲しがつてゐたものだつたが、危いから駄目だ/\と云はれて、父からも母からも許されなかつた。その代りクリスマスの日に母から立派なハーモニカを買つて貰つたのであつた。
 周一は、ハーモニカに直ぐ飽きてしまつた。何故かなら、一月もかゝつていくら一所懸命に吹いて見ても、やさしい唱歌さへ吹けなかつたからだ。
「ねえお母さん、今度の日曜に、お隣りの健ちやんと一緒なら、空気銃を持つて山の方へ遊びに行つてもいゝ?」
 ある日周一は、もうどうしても空気銃が使つて見たくて堪らなくなつて、茶の間で縫物をしてゐた母の傍へ駆け寄つて斯う云つた。
「空気銃?」と、母は縫物の手を止めて、眼を丸くして聞返した。
「えゝ。」といつた周一は、これはとても駄目らしいぞと気付いたが、事更にきつぱりと、
「だつて健ちやんと一緒ならいゝでせう。」と云つた。母は黙つてゐた。
「ね、いゝでせう?」
「お父さんにお訊ねして御覧なさい。」
「ぢやお父さんが好いとおつしやつたら好いの?」
 母の機嫌は益々悪く見えた。周一はもう泣き出したいやうな気持になつて、たゞ無暗と鼻をならしてゐた。
 庭で草花の手入れをしてゐた父が、その様子を見ると、莨を喫しながら縁端へ来て腰をかけた。
「ぢやいゝだらう。もう一つ年を取つたんだから間違ひもあるまい。お隣の健ちやんと一緒だね。」
「えゝ、さう。」と周一は、思はず飛びあがるやうに元気よく叫んだ。
「お前に鳥なんか打てるものですか、他所の硝子でも割るのが関の山だよ。」と母は笑つたが、周一はもう嬉しくつて/\、母の言葉なんか耳に入らなかつた。
「山へ行くんだ。裏の山へ行くんだ。レオ(犬の名)も一緒に伴れてつて……」と、周一は急いで自分の部屋に駆け込んだ。



 その晩周一は、空気銃を枕もとに置いて寝た。
 翌朝は蒼々と晴れて、冬とは思へぬ位暖い日であつた。
 朝早く起きた周一は、朝飯をそこそこに済ますと庭へ出て、レオの首に鎖をつけた。ところが首に鎖など付けられたことのないレオは、いくら周一がムキになつて引ツ張らうとしても一足も歩かない。後脚をふんばつてクンクン鳴きながら無暗に抵抗した。猟に行くにはどうしても猟犬がなくつては駄目だと思つてゐる周一は、両腕に力を込めてウン/\いひながら引ツ張つて見たが、どうしても来ないので、しまひには諦めたか、レオの首から鎖をはづし、「馬鹿レオ!」と、云つて犬の頭をポカリと叩いた。
 周一は、兵隊さんのやうに空気銃を肩に担いで、スタスタと歩き出した。すると其の後からレオは、今度は呼びもしないのに尾を振つて、周一の脚にからまるやうについて来るのだつた。
「いゝ空気銃だなア。」
 周一よりも三つも年上の健ちやんは、周一の手から空気銃を取つて、一寸狙つて見た。さうして、パチンと一つ空弾を打…

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