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赤い船とつばめ
あかいふねとつばめ
作品ID52922
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 5」 講談社
1977(昭和52)年3月10日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者本読み小僧
公開 / 更新2012-10-24 / 2014-09-16
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 ある日の晩方、赤い船が、浜辺につきました。その船は、南の国からきたので、つばめを迎えに、王さまが、よこされたものです。
 長い間、北の青い海の上を飛んだり、電信柱の上にとまって、さえずっていましたつばめたちは、秋風がそよそよと吹いて、木の葉が色づくころになると、もはや、南の方のお家へ帰らなければなりませんでした。寒さに弱い、この小鳥は、あたたかなところに育つように生まれついたからです。
 王さまは、もうつばめらの帰る時分だと思うと、赤い船を迎えによこされました。つばめたちも、船に乗りおくれてはならぬと思って、その時分には、海岸の近くにきて、気をつけていました。そして、波間に、赤い船が見えると、
「キイ、キイ……。」といって、喜んで鳴いたのです。
 早く見つけたつばめは、それをまだ知らない友だちに告げるために、空高く舞い上がって、紺色の美しい翼をひるがえしながら、
「赤い船がきましたよ。さあ、もう私たちは、立つときです。どうか、遠方にいるお友だちに知らせてください。」といいました。
 なかには遠いところにいて、まだ知らずにいるものもありました。そういうつばめは、村に他のいいお友だちができて、「まあ、まあ、そんなに急いで、お帰りなさることはない。」といわれて、引きとめられているつばめたちであったのでした。
 赤い船は、浜辺に四日、五日、とまっていました。そして、四方から、毎日のように集まってくるつばめを待っていました。もう、たくさんつばめが船に乗って、最後には、ほばしらの上まで止まって、まったく、はいる席がなくなった時分、静かに海岸をはなれたのです。
 たいていは、月のいい晩を見はからって、出発しました。なぜなら、長い海の上をゆくには、景色が見えなければ、退屈であるし、また途中から、船をたよって、飛んできて加わるものがないとはかぎらなかったからです。
 あるとき、一羽のつばめは、船に乗ろうと思って、遠いところから、急いで飛んできましたが、すでに船の立ってしまった後でした。
 そのつばめは、ひじょうにがっかりしました。しかたなく、木の葉を船として、これに乗ってゆこうと決心しました。それより海のかなたへ、渡る途はなかったのです。
 昼間は、木の葉をくわえて飛んで、夜になると葉を船にして、その上で休みました。そのつばめは、こうして、旅をしているうちに、一夜、ひじょうな暴風に出あいました。驚いて、木の葉をしっかりとくわえて暗い空に舞い上がり、死にもの狂いで夜の間を暴風と戦いながらかけりました。
 夜が明けると、はるか目の下の波間に、赤い船が、暴風のために、くつがえっているのを見ました。それは、王さまのお迎えに出された赤い船です。つばめは、急いで帰って、このことを王さまに申し上げました。――王さまは、ここにはじめて、自らの力をたよることのいちばん安心なのを悟られ、あくる…

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