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片田舎にあった話
かたいなかにあったはなし
作品ID52925
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 5」 講談社
1977(昭和52)年3月10日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者江村秀之
公開 / 更新2014-02-12 / 2014-09-16
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 さびしい片田舎に、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
 ある日、都にいるせがれのところから、小包がとどいたのです。
「まあ、まあ、なにを送ってくれたか。」といって、二人は、開けてみました。
 中から、肉のかん詰めと果物と、もう一つなにかのかん詰めがはいっていました。
「これは、おいしそうなものばかりだ。」といって、二人は喜びました。
 夕飯のときに、おじいさんは、
「どれ、せがれが送ってよこした、かん詰めを開けようじゃないか。」と、おばあさんにいいました。
 おばあさんは、三つのかん詰めを膳のところへ持ってきて、
「どれにしましょうか。」と、おじいさんにたずねました。
「そちらの小形の赤いかんは、なんだろうな。」と、おじいさんは、いいました。
 おばあさんにも、よく、それがわかりませんでした。
「なにか、外国の文字が書いてありますが……。」といって、おじいさんに手渡しました。
 おじいさんも、手に取ってみたが、やはりわかりませんでした。
「どんなものか、これをひとつ開けてみよう……」といいました。
 たとえ、年を取っても、やはり、珍しいものにはいちばん興味を覚えるものです。
 おじいさんは、そのかんのふたを開けました。すると香ばしいかおりがしたのです。
「粉じゃ、なんの粉だろう……。」と、頭をかしげました。
 こんどは、おばあさんが、その赤いかんを取って、香いを嗅いだのであります。
「おじいさん、これは、やはり麦を挽いた粉ですよ。うちのせがれは、子供の時分から、不思議な子で、こうせんが大好きだったから、こんなものを送ってよこしたのですよ。」と、おばあさんはいいました。
「飯にでもかけて食べるのかな。」
「きっと、そうするのでございますよ。」
 おじいさんと、おばあさんは、その赤黒い粉を飯にかけて食べました。しかし、その香いほど、あまり、うまくはありません。
「砂糖をまぜなければならぬだろう。」と、おじいさんがいいました。
「これは、子供の食べるものですね。」と、おばあさんはいいながら、立って、砂糖を持ってきました。そして、二人は、飯にかけて食べました。
 夜になって、二人は、いつものごとく床につきました。けれど、どうしたことか、目がさえて眠れませんでした。
「ああ、こうせんを食べたので、胸がやけたとみえて眠れない。」と、おじいさんがいいますと、
「外国のものは、体に合わないから、食べるものでありませんね」と、おばあさんは、答えました。
 二人は、やっと眠りつきましたが、いろいろの夢を見ました。
 おじいさんは、まだ元気で、河へ釣りにいった夢を見たり、おばあさんは、まだ若くて、みんなと花見にいったことなどを夢に見ました。
 翌日、二人は、あの赤いかんの中の粉を捨ててしまおうかと話をしていました。そこへ、小包よりおくれて、せがれから、手紙がとどきました。…

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