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![]() ゆめどの |
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作品ID | 52958 |
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著者 | 北原 白秋 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「白秋全集 10」 岩波書店 1986(昭和61)年4月7日 |
入力者 | 岡村和彦 |
校正者 | 光森裕樹 |
公開 / 更新 | 2014-12-10 / 2014-11-14 |
長さの目安 | 約 85 ページ(500字/頁で計算) |
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上巻
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白良
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昭和九年八月中旬、台湾巡歴の帰途、神戸に迎へたる妻子と共に紀州白良温泉に遊ぶ。滞在数日。
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白良
白良の浜に遊びて
白良の ましららの浜、まことしろきかも。驚くと、我が見ると、まことしろきかも。踏みさくみ、手ぐさとり、あなあはれ、まことしろきかも。子らと来て、足投げて、膝くみて、ただにしろきかも。白良の ましららの浜、松が根も、渚べも、日おもても、ただにしろきかも。あなあはれ、目に霧りて、火気だちて、しろきかもや、しろきかもや、立ちても居ても。
おなじく
ましららの白良の浜はまことしろきかも敷きなべて真砂も玉もまことしろきかも 旋頭歌一首
また
ましららのまこと白浜照る玉のかがよふ玉の踏み処知らなく
まことにもしろき浜びや足つけて踏みさくみ熱き真砂照る玉
音絶えてかがよふ砂浜ましろくぞ白良のま玉火気澄みつつ
昼渚
松が枝の疎き鱗に照るさへや真砂は暑し吹きあげの玉
女童の脛の柔毛につく砂のしろき真砂は光りつつあり
浜木綿は花のかむりの立ち枯れてそこらただ暑し日ざかりの砂
浜木綿を、また
牟婁と言へば葉叢高茎百重なす浜木綿の花はうべやこの花
紀の海牟婁の渚に群れ生ふる浜木綿の花過ぎにけるかも
糸しだり花過ぎ方の浜木綿は影おだしけれ火照る夕波
崎の湯二趣
崎の湯は湯室の庇四端反り夕凪にあるか入江向ひに
牟婁の崎荒き石湯に女童居りて大わだの西日ただに明かり
夜景
浜木綿に湯室の灯映りゐて真砂踏み来る足音絶えぬ
短夜
短夜の白良の浜に来寄る波燈籠にまくわ苧がらなどをあはれ
白良荘起臥
朝ながめ夕ありきして牟婁の津や白良の浜に玉をめでつつ
玉ひろふ子らと交らひ牟婁の崎白良の浜に七夜寝にける
砂いくつ畳にひろふ起臥も早やすずしかり唐紙のべしむ
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郷土飛翔吟
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小序
我弱冠、郷関を出て処女詩集「邪宗門」を公にして以来、絶えて故国に帰ること無し。その間、歳月空しく流れて既に二十の星霜を経たり。時に望郷の念禁じ難く、徒に雲に島影を羨むのみ。偶[#挿絵]昭和三年夏七月、大阪朝日新聞社の求むるところにより、その旅客輸送機ドルニエ・メルクールに乗じて北九州太刀洗より大阪へ飛翔せんとす。これ日本に於ける最初の芸術飛行なり。事前、乃ち妻子を伴ひて郷国に下る。山河草木、旧のごとくにして人また変転、哀楽また新にして恩愛一のごとし。南関柳河行これなり。二十三日、本飛行を決行するに先立つて、幸ひに試乗してその太刀洗より郷土訪問飛行の本懐を達するを得たり。恩地画伯、長子隆太郎と共なり。ここにその長歌十七篇短歌…