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赤い船のお客
あかいふねのおきゃく
作品ID52960
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 4」 講談社
1977(昭和52)年2月10日
初出「童話」1924(大正13)年5月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者富田倫生
公開 / 更新2012-03-09 / 2014-09-16
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 ある、うららかな日のことでありました。
 二郎は、友だちもなく、ひとり往来を歩いていました。
 この道を、おりおり、いろいろなふうをした旅人が通ります。
 彼はさも珍しそうに、それらの人たちを見送ったのであります。
 二郎は、こうして街道を歩いてゆく知らぬ人を見るのが好きでした。
 さまざまなことを空想したり、考えたりしていると、独りでいてもそんなにさびしいとは思わなかったからです。
 暖かな風が、どこからともなく吹いてくると、乾いた白い往来の上には、ほこりが立ちました。
 まだ、おそ咲きのさくらの花が、こんもりと、黒ずんだ森の間から見えるのも、いずれも、なつかしいやるせないような気持ちがしたのであります。
 その日も、二郎は独りあてもなく、街道を歩いていました。
 車の音が、あちらへ夢のように消えてゆきます。
 薬売りかなぞのように、箱をふろしきで包んで負った男が、下を向いて過ぎていってからは、だれも通りませんでした。
 二郎は、寺の前の小さな橋のわきに立って、浅い流れのきらきらと日の光に照らされて、かがやきながら流れているのを、ぼんやりとながめていました。
 彼はほんとうに、このときはさびしいと思っていたのであります。
 ちょうど、このとき、奥深い寺の境内から、とぼとぼとおじいさんがつえをついて歩いて出てきました。
 おじいさんは、白いひげをはやしていました。
 二郎は、そのおじいさんを見ていますと、おじいさんは、二郎のわきへ近づいて、ゆき過ぎようとして二郎の頭をなでてくれました。
「いい子だな、独りでさびしいだろう。」と、おじいさんはいいました。
 二郎は黙って、おじいさんの顔を見ていました。
 おじいさんは、たもとの中から、短い笛を取り出しました。
「この笛を坊やにやるから、あちらの丘へいって吹いてごらん。これはいい音が出るよ。」といいました。
 二郎はおじいさんから、その笛をもらいました。
 おじいさんの顔は、いつも笑っているように柔和に見えました。
 おじいさんは、あちらへつえをつきながらいってしまいました。
 二郎はその笛を持って、あちらの砂山にゆきました。
 このあたりは海岸で、丘には木というものがなかったのです。
 砂の山が、うねうねとつづいていました。
 そして、暖かな日なので、陽炎が立っていました。
 沖の方を見ますと、青い青い海が笑っていました。
 砂山の下には、波打ちぎわに岩があって、波のまにまにぬれて、日に光っていました。
 そして、翼の白い海鳥が飛んでいました。
 笛には、いくつかの小さな穴があいています。
 その一つ一つの穴から、吹くと、ちがった音が出ました。
 笛は短い赤と青とに、その色が塗り分けてありました。
 大きな穴が一つ、小さな同じような穴が五つあいていました。
 二郎がそれを吹きますと、なんともいうことのできない…

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