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ある日の先生と子供
あるひのせんせいとこども |
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作品ID | 52962 |
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著者 | 小川 未明 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「定本小川未明童話全集 4」 講談社 1977(昭和52)年2月10日 |
初出 | 「童話」1924(大正13)年1月 |
入力者 | 特定非営利活動法人はるかぜ |
校正者 | 富田倫生 |
公開 / 更新 | 2012-03-14 / 2014-09-16 |
長さの目安 | 約 8 ページ(500字/頁で計算) |
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それは、寒い日でありました。指のさきも、鼻の頭も、赤くなるような寒い日でありました。吉雄は、いつものように、朝早くから起きました。
「お母さん、寒い日ですね。」と、ごあいさつをして震えていました。
「火鉢に、火がとってあるから、おあたんなさい。」と、お母さんは、もう、朝のご飯の支度をしながらいわれました。
吉雄は、火鉢の前にいって、すわって手を暖めました。家の外には、風が吹いていました。そして雪の上は凍っていました。
「いま、熱いお汁でご飯を食べると、体があたたかくなりますよ。」と、お母さんは、いわれました。
そのうちに、ご飯になって、吉雄は、お膳に向かい、あたたかなご飯とお汁で、朝飯を食べたのであります。
「番茶がよく出たから、熱いお茶を飲んでいらっしゃい。体が、あたたかになるから。」と、お母さんは、吉雄の、ご飯が終わるころにいわれました。
吉雄は、お母さんのいわれたように、いたしました。すると、ちょうど、汽車の汽罐車に石炭をいれたように、体じゅうがあたたまって、急に元気が出てきたのであります。
吉雄は、学校へゆく前には、かならず、かわいがって飼っておいたやまがらに、餌をやり、水をやることを怠りませんでした。
夜の中は、寒いので、毎晩、やまがらのかごには、上からふろしきをかけてやりました。そして、学校へゆく時分に、そのふろしきを取ってやったのです。
その日も、吉雄は、いつものごとくふろしきを除けて、かごを出してやりました。そして、餌をやり、水を換えてやってから、鳥かごを、戸口の柱にかけてやりました。
太陽が、いちばん早く、ここにかけてある鳥かごにさしたからであります。けれども、あまり寒いので、鳥は、すくんで、体をふくらましていました。やがて、太陽が、かごの上をさす時分には、元気を出して、あちらに止まり、こちらに止まって、そして、もんどり打ってよくさえずるでありましょうが、いまは、そんなようすも見られませんでした。
しかし、鳥がそうする時分は、吉雄は、学校へいってしまって、教室にはいって、先生から、お修身や、算術を教わっているころなのでありました。
どこか、遠いところで、凧のうなる音が聞こえていました。そして、風が、すさまじく、すぎの木の頂を吹いています。その風は、また、かごの中のやまがらの頭の細い小さな毛をも波立てました。すると、やまがらは、ますますまりのように、体をふくらませたのであります。
吉雄は、こうしている間に、餌ちょくの水が凍ってしまったのを見ました。彼は、また新しい水を換えてやりました。凍ってしまっては、やまがらが、水を飲むのに、困るだろうと思ったからです。
このとき、ふと、吉雄は、さっきお母さんがおいいなされたことから、
「やまがらにも、あたたかなお湯をいれてやったら、体があたたまって、元気が出るだろう。」と、思いつき…