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ある夜の星たちの話
あるよのほしたちのはなし
作品ID52964
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 4」 講談社
1977(昭和52)年2月10日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者富田倫生
公開 / 更新2012-03-19 / 2014-09-16
長さの目安約 9 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 それは、寒い、寒い冬の夜のことでありました。空は、青々として、研がれた鏡のように澄んでいました。一片の雲すらなく、風も、寒さのために傷んで、すすり泣きするような細い声をたてて吹いている、秋のことでありました。
 はるか、遠い、遠い、星の世界から、下の方の地球を見ますと、真っ白に霜に包まれていました。
 いつも、ぐるぐるとまわっている水車場の車は止まっていました。また、いつもさらさらといって流れている小川の水も、止まって動きませんでした。みんな寒さのために凍ってしまったのです。そして、田の面には、氷が張っていました。
「地球の上は、しんとしていて、寒そうに見えるな。」と、このとき、星の一つがいいました。
 平常は、大空にちらばっている星たちは、めったに話をすることはありません。なんでも、こんなような、寒い冬の晩で、雲もなく、風もあまり吹かないときでなければ、彼らは言葉を交わし合わないのであります。
 なんでも、しんとした、澄みわたった夜が、星たちには、いちばん好きなのです。星たちは、騒がしいことは好みませんでした。なぜというに、星の声は、それはそれはかすかなものであったからであります。ちょうど真夜中の一時から、二時ごろにかけてでありました。夜の中でも、いちばんしんとした、寒い刻限でありました。
「いまごろは、だれも、この寒さに、起きているものはなかろう。木立も、眠っていれば、山にすんでいる獣は、穴にはいって眠っているであろうし、水の中にすんでいる魚は、なにかの物蔭にすくんで、じっとしているにちがいない。生きているものは、みんな休んでいるのであろう。」と、一つの星がいいました。
 このとき、これに対して、あちらに輝いている小さな星がいいました。この星は、終夜、下の世界を見守っている、やさしい星でありました。
「いえ、いま起きている人があります。私は一軒の貧しげな家をのぞきますと、二人の子供は、昼間の疲れですやすやとよく休んでいました。姉のほうの子は、工場へいって働いているのです。弟のほうの子は、電車の通る道の角に立って新聞を売っているのです。二人の子供は、よくお母さんのいうことをききます。二人とも、あまり年がいっていませんのに、もう世の中に出て働いて、貧しい一家のために生活の助けをしなければならないのです。母親は、乳飲み児を抱いて休んでいました。しかし、乳が乏しいのでした。赤ん坊は、毎晩夜中になると乳をほしがります。いま、お母さんは、この夜中に起きて、火鉢で牛乳のびんをあたためています。そして、もう赤ちゃんがかれこれ、お乳をほしがる時分だと思っています。」
「二人の子供はどんな夢を見ているだろうか? せめて夢になりと、楽しい夢を見せてやりたいものだ。」と、ほかの一つの星がいいました。
「いや、姉のほうの子は、お友だちと公園へいって、道を歩いている夢を見ています…

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