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子供と馬の話
こどもとうまのはなし
作品ID52972
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 4」 講談社
1977(昭和52)年2月10日
初出「童話」1923(大正12)年11月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者へくしん
公開 / 更新2020-06-25 / 2020-05-27
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 九月一日の大地震のために、東京・横浜、この二つの大きな都市をはじめ、関東一帯の建物は、あるいは壊れたり、あるいは焼けたりしてしまいました。そして、たくさんな人間が死にましたことは、もうみんなの知っていることだと思います。いままで動いていた汽車はトンネルやレールが破壊したために、もう往来ができなくなりました。また、毎晩華やかな街を照らしていた電燈は、装置が壊れてしまったために、その後、幾日というものは、都じゅうが真っ暗になり、夜は、ランプをつけたり、ろうそくをともさなければなりませんでした。
 そんなように、いままでつごうがよく、便利であったものが、すっかり狂ってしまって、三十年も四十年もの昔に帰ったように、不便なみじめな有り様になったのでありました。
 こういうめにあいますと、いままで、便利な生活をなんでもなく思っていた人々ははじめて、平和な日のことにありがたみを感じたのでありました。そして、また、それが昔のようになるのには、どれほど、多くの労力と日数とがかからなければ、ならぬかということを知ったのであります。
 私たちは、けっして、ひとりでに、この世の中が便利に、文明になったと思ってはいけません。たとえば、一つのトンネルを掘るにも、どれほど、多くの人たちが、そのために苦しみ働いたかを考えなければならないのです。
 また、電気が、にぎやかな街々につくのも、てんでの家にきたのも、そこには、たくさんな人たちの労力とそれに費やされた日数があったことを考えなければなりません。
 こうして、この世の中は、みんなの力によって、文明になり、つごうがよくゆき、そして平和が保たれてきたのでありました。
 けっして、自分独りが、どんなに富裕であっても、また学問があっても、この世の中は、すこしもつごうよくいくものでもなければ、また文明になるものでもないことをよく知らなければなりません。それを知るには、こんどの災害はいい機会といっていいのです。
 それですから、困っている人たちを困らない人たちは救わなければなりません。そして、いままでのように、みんなが自分の才能をふるって、この世の中のために有益に働き、ますますつごうがよくいくように早くしなければならないのだと思いました。
 もう一つ、この機会に、私たちは、知らなければならないことがあります。それは、この世の中のために働いているものは、ひとり、人間ばかりでなく、馬も、牛も、よく人間のために働いているということです。
 この、ものをいうことのできない、おとなしい、かわいそうな動物を、心ある人間は、憐れんでやらなければなりません。いじめられるからといっていじめてはなりません。
 太郎と二郎とは、よく、朝起きるときから、夜寝るまでの間に、幾たびということなく、けんかをしたかしれません。それは、ほんとうにたがいに憎み合ったからではなく、か…

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