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こまどりと酒
こまどりとさけ
作品ID52973
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 4」 講談社
1977(昭和52)年2月10日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者へくしん
公開 / 更新2020-01-09 / 2019-12-27
長さの目安約 12 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 夜おそくまで、おじいさんは仕事をしていました。寒い、冬のことで、外には、雪がちらちらと降っていました。風にあおられて、そのたびに、さらさらと音をたてて、窓の障子に当たるのがきこえました。
 家の内に、ランプの火は、うす暗くともっていました。そして、おじいさんが、槌でわらを叩く音が、さびしいあたりに、おりおりひびいたのであります。
 このおじいさんは、たいそう酒が好きでしたが、貧しくて、毎晩のように、それを飲むことができませんでした。それで、夜業に、こうしてわらじを造って、これを町に売りにゆき、帰りに酒を買ってくるのをたのしみにしていたのであります。
 野原も、村も、山も、もう雪で真っ白でありました。おじいさんは、毎晩根気よく仕事をつづけていたのであります。
 こう、雪が降っては、隣の人も話にやってくるには難儀でした。おじいさんは、しんとした外のけはいに耳を傾けながら、「また、だいぶ雪が積もったとみえる。」と、独りごとをしました。そして、また、仕事をしていたのであります。
 このとき、なにか、窓の障子にきて突きあたったものがあります。雪のかかる音にしては、あまり大きかったので、おじいさんは、なんだろうと思いました。
 しかし、こうした大雪のときは、よく小鳥が迷って、あかりを見てやってくることがあるものだと、おじいさんは知っていました。これはきっとすずめか、やまがらが、迷って飛んできたのだろう。こう思って、おじいさんは、障子を開けてみますと、暗い外からはたして、一羽の小鳥がへやのうちに飛び込んできました。
 小鳥は、ランプのまわりをまわって、おじいさんが仕事をしていたわらの上に降りて、すくんでしまいました。
「まあ、かわいそうに、この寒さでは、いくら鳥でも困るだろう。」と、おじいさんは小鳥に近づいて、よくその鳥を見ますと、それは美しい、このあたりではめったに見られないこまどりでありました。
「おお、これはいいこまどりだ。おまえは、どこから逃げてきたのだ。」と、おじいさんは、いいました。
 こまどりは、野にいるよりは、たいてい人家に飼われているように思われたからです。おじいさんは、ちょうどかごの空いているのがありましたので、それを出してきて、口を開いて、小鳥のそばにやると、かごになれているとみえてこまどりは、すぐにかごの中へはいりました。
 おじいさんは、小鳥が好きで、以前には、いろいろな鳥を飼った経験がありますので、雪の下から青菜を取ってきたり、川魚の焼いたのをすったりして、こまどりに餌を造ってやりました。
 こまどりは、すぐにおじいさんに馴れてしまいました。おじいさんは、自分のさびしさを慰めてくれる、いい小鳥が家にはいってきたものと喜んでいました。
 明くる日から、おじいさんは、こまどりに餌を造ってやったり、水をやったりすることが楽しみになりました。そして太…

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