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すみれとうぐいすの話
すみれとうぐいすのはなし |
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作品ID | 52975 |
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著者 | 小川 未明 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「定本小川未明童話全集 4」 講談社 1977(昭和52)年2月10日 |
入力者 | 特定非営利活動法人はるかぜ |
校正者 | へくしん |
公開 / 更新 | 2021-04-24 / 2021-03-27 |
長さの目安 | 約 8 ページ(500字/頁で計算) |
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小さなすみれは、山の蔭につつましやかに咲いていました。そして、いい香りを放っていました。
すみれは、そこでも、安心をしていることは、できなかったのです。なぜなら、そのすみれをたずねてくるものは、ひとり、美しいちょうや、かわいらしいみつばちばかりではなかったからです。
「ここにも、すみれが咲いていた。とって香りをかいでごらんなさい。いい香りがするから。」と、山に遊びにきた、子供たちはいったのです。
すみれは、自分ほど、不幸なものは、この世の中に、ないと思いました。小さな体で、しかも、ものの蔭に、つつましく咲いているのを、それすら安心ができなかったからです。
「ああ、わたしほど、不しあわせなものはない。」と、すみれは、ため息をしました。
そのとき、そばから、名もない草がいいました。
「すみれさん、あなたは、あんまり美しく生まれてこられたからです。そして、いい香りをもっていなさるからです。私のように、粗末に生まれてきたものは、ちょうや、はちなどというきれいなものに、振り向かれないかわり、まあ、無事といえばいえるのです。どちらがいいかわかったものでありません。そう、歎くにはおよびませんよ。」と、皮肉のようになぐさめるように、いったのでした。
これを聞くと、すみれは、寒い風に、小さな頭を振りながら、
「いいえ、わたしは、自分の不安な生活のことを考えると、もう、ちょうにも、みつばちにもきてもらわなくてもいいのです。どうか、あなたのように、安心した生活を送りたいものです。」と答えました。
しかし、名もない草は、もうあきらめているというふうで、
「そういったって、しかたのないことです。」といったきり、黙ってしまいました。
このとき、どこからか、一羽のうぐいすが飛んできて、そばの木の枝に止まりました。そして、いい声でさえずりました。
この声をきくと、すみれは、なんといういい声だろうと感心しました。
「なぜ、わたしは、鳥になって生まれてこなかったろう。そして、ああしたいい声で鳴くことができたら、どんなにうれしいであろう。」と思いました。
うぐいすは、しばらく枝に止まっていました。そのうち地面に降りてきました。うぐいすは、小さなすみれの花を見つけました。
「かわいらしい花だこと。」といって、すみれのすぐそばにやってきました。
「すみれさん、あなたは、しあわせものですね。」と、うぐいすはいいました。
これを聞くと、すみれは、うぐいすが自分をからかうのだと思いました。そして、うぐいすをいい声だと感心したことなどは忘れてしまって、すみれは、腹をたてずにはいられませんでした。
「わたしほど、不しあわせなものが、世の中にありましょうか。」と、すみれは、かなしい、細い声でいいました。
すると、うぐいすは、頭をかしげながら、じっとすみれを見つめていました。
「すみれさん、…