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すももの花の国から
すもものはなのくにから
作品ID52976
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 4」 講談社
1977(昭和52)年2月10日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者栗田美恵子
公開 / 更新2020-01-09 / 2019-12-29
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 人々のあまり知らないところであります。そこには、ほとんど、かずかぎりのないほどの、すももの木がうわっていました。そして、春になると、それらのすももの木には、みんな白い花が、雪のふったように咲いたのであります。
 その木の下をとおると、いい匂いがして、空の色が見えないまでに、白い花のトンネルとなってしまいました。それは、あまりに白くて、清らかなので、肌が、ひやひやするようにおもわれたのであります。
 しかし、ゆけども、ゆけども、白い花のトンネルはつきませんでした。まるで、白い雪の世界をあるいているようなものでした。けれど、雪ではありません。雪は、真っ白でありますが、すももの花は、いくぶん、青みがかっていて、それに、いい匂いがしました。
 しまいには、どこが出口やら、また、入って、あるいてきたところやら、わからなくなってしまいました。すると、そのすももの林のなかに、一軒のわら屋がありました。その家には、しらがのおばあさんと、三人の姉弟がありました。いちばん上の姉は、十四で、つぎの妹は、十二で、下の弟は、八つばかりでありました。
 この三人は、ほかにお友だちもなかったから、姉弟で、なかよくあそんでいました。
「お父さんや、お母さんは、いつになったらかえっていらっしゃるだろう?」と、妹と弟は上の姉さんにむかってたずねたのです。すると、姉さんは、やさしい目をして二人を見ながら、
「私だって、かすかに、お母さんのかおや、お父さんの顔をおぼえているばかりなのよ。春の晩方のこと、こうして、すももの花の咲いたじぶんに、みんながランプの下で、たのしく、お話をしたことだけをおぼえているのよ。」と、姉さんはこたえました。
 二人は、ぼんやりとしたかおつきをして、姉さんのいうことをきいていましたが、
「お父さんは、どこへいかれたのだろう……。」と、弟がいいました。
「お母さんは、どこへおいでになったのでしょう……。」と、妹がたずねました。
 すると、姉さんが、
「お父さんも、お母さんも、街のほうへおいでになったのよ。それは、街は、きれいなんですって。そして、いろいろな花が、もっと、もっと、ここよりか美しく咲いているということです。」とこたえました。
「ここよりか?」
「ここには、白い花ばかりですけど、街へゆけば、紅い花や、青い花や、黄色い花が、咲いているといいます。」
「ぼくも、街へいってみたいな。」と弟がいいました。「あたしも……。」と妹がいいました。
「私だって、いってみたいことよ……。もしや、お母さんや、お父さんにあわれないものでもないから。」と、姉がいいました。
 そこで、三人は、おばあさんのいなさるところへやってきました。おばあさんは、子供たちの着物のほころびをつくろっていられました。
 姉弟は、街へゆきたいということを、おばあさんに話しますと、おばあさんは、
「おまえた…

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