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竹馬の太郎
たけうまのたろう
作品ID52977
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 4」 講談社
1977(昭和52)年2月10日
初出「童話」1924(大正13)年1月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者栗田美恵子
公開 / 更新2020-09-10 / 2020-08-28
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 太郎は、お父さんや、お母さんのいうことを聞きませんでした。竹馬に乗ることが大好きで、毎日、外へ出て竹馬に乗って遊んでいました。
 竹馬の太郎といえば、村じゅうで、だれ知らぬものはないほどの腕白子でありました。まだ、やっと六つでしたけれど、大きな子供の中にはいって遊んでいました。
「太郎や、そんなに外に出て、遊んでばかりいてはいけない。お家へはいってお母さんのおてつだいをなさい。」
と、お母さんは、いっても、太郎は、ききませんでした。
 太郎が、竹馬に乗って、走ったり、また跳ねたりするのを見ますと、それは、ほんとうにおもしろそうでありました。
「よく、まあ太郎さんは、あんなに高い竹馬に乗れたもんだ。目がまわるだろう。」
と、見た近所の人たちは、驚いたのであります。
 竹馬に乗って走ると、それは早いのでした。だから、太郎は、大きな友だちにまじって鬼ごっこをしても、めったにつかまることはありませんでした。
 かくれんぼをするときは、高い木の枝の上に、ぞうさなく登れました。また、屋根の上へもあがることができましたから、太郎は、なかなか見つけられませんでした。
 秋になると、田舎は、圃や、野原にかきの木があって、実が真っ赤にうまそうに熟しました。太郎は、高い竹馬の上から、手をのばして、いちばんよく熟したうまそうなのから取ることができたのです。
「太郎ちゃん、僕にも、一つ取っておくれ。」
と、下でほかの男の子が頼みました。
「ね、あたしにも、取っておくれよ。」
と、女の子も頼みました。
 太郎は、みんなに取ってやりました。そのほか、くるみでも、くりでも、ほしいものは自由に取りましたから、その木の持ち主は、怒りました。
「太郎というガキは、よくないやつだ。みんなうちのかきを取ってしまった。」
といって、こんど見つけたら、ひどいめにあわしてやろうと思っていました。
 持ち主は、いまくるか、いまくるかと、物蔭に隠れて、見張っていますと、太郎は、高い竹馬に乗ってあとからおおぜいの子供を引き連れてやってきました。
「このやろう、なんでうちのかきを、黙って取るのだ!」と、持ち主は、飛びだしました。
 しかし、太郎は、急いで駈けて、あちらの小川を竹馬でやすやすと渡ってしまいましたので、持ち主は川のふちまでやってきて、どうすることもできませんでした。
 村の人たちは、「太郎をしかってください。」と、何人も、太郎の家へやってきました。太郎のお父さんも困ってしまって、ある晩のこと、こらしめのために、雨戸を閉めて、太郎を家に入れませんでした。
 その晩は、寒い、月のいい晩でありました。太郎は、しくしくと戸の外で泣いていましたが、そのうち竹馬に乗って、あちらの月の照らす明るい野原の方へ歩いてゆきました。
「太郎、どこへゆく。」と、空で、いったものがあります。仰ぐと、円い顔のお月さまが、じっと…

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