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翼の破れたからす
つばさのやぶれたからす
作品ID52980
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 4」 講談社
1977(昭和52)年2月10日
初出「赤い鳥」1924(大正13)年3月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者へくしん
公開 / 更新2021-03-10 / 2021-02-26
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 西の山のふもとの森の中に、からすが巣を造っていました。そして、毎日、朝はまだ、空の明けきらないうす暗いうちから、みんなのからすは列をなして、東の空を指して高く飛んでゆきました。
 その時分、村では、起きた家もあれば、まだ寝ている家もありました。からすは、こうして餌を探しに出るのでした。
 一日、町の裏や、圃や、また河の淵や、海浜など、方々で食を求めるのでした。一羽がなにかいいものを見つけましたときは、これをみんなに知らせました。そして、けっして、ひとりでそれをばみんな自分のものにしようとはしませんでした。
 みんなは、どこへ飛んでゆくのにも、いっしょでありました。また、ひとりがほかのとびやたかなどにかかって、いじめられるようなときがあれば、そのひとりの友だちを見捨てるようなことは、しませんでした。あくまで、その友だちを助けました。そして、いっしょになって戦うか、また、逃げるかしたのであります。
 晩方になると、からすたちは、また、山のふもとをさして、列を造って帰るのでした。
「カア、カア。」と鳴いて、村の上の空を高く飛んで過ぎたのであります。春、夏、秋、冬。毎日、毎日、それに変わりがなかったのでありました。
 太郎は、ある日、家の前に立って、頭の上を、カア、カア、と鳴いてゆく、からすの群れをじっと見上げていたのでした。
 黒く、さおのように、一列になって、からすの群れは、西の空をさして飛んでゆきました。いちばん先のからすが、疲れると、つぎのからすが先になりました。そのからすが、すこし後れると、後のからすがいちばん先になるというふうに、なんでも、元気のいい敏捷なからすが、いちばん先頭になって、みんなを率いて、ゆくように見えたのです。
 からすは、おたがいに、元気をつけあって、そして、みんなが、列から、はずれないようにしてゆきました。また、先頭のからすは、行く手にあった野原や、河や、海浜や、村や、町などにも注意を配らなければなりません。いつ、どんなものが、自分たちを狙うかわからないからです。
 太郎は、からすの列がただしいのを見て感心しました。そして、彼は、いくついるだろうかと先になっているのから、一つ、一つ、数えてみていたのでした。
 太郎は、このからすの群れの中に、ただ一羽、片方の翼が傷んでいる、哀れなからすを発見しました。そのからすは、敵とけんかをしたものか、また、鉄砲で打たれたものか、また、もち棒にでもかかったものか、右の翼が破れていました。
「あんなに、いたんだ翼で、なんともないものだろうか。」と、太郎は、気遣わしげに感じながら、そのからすを、とくに注意して、見上げていました。
 やはり、そのからすは、翼がいたんでいるだけに疲れやすかったのであります。ややもすると、そのからすは後れがちになりました。それを友だちのからすは、いたわるようにして、前になり…

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