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時計とよっちゃん
とけいとよっちゃん
作品ID52981
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 4」 講談社
1977(昭和52)年2月10日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者へくしん
公開 / 更新2020-09-10 / 2020-08-29
長さの目安約 11 ページ(500字/頁で計算)

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本文より



 よっちゃんは、四つになったばかりですが、りこうな、かわいらしい男の子でした。
 よっちゃんは、毎日、昼眠をしました。そして、たくさんねむって、ぱっちりと目をあけましたときは、それは、いい機嫌でありました。
「チョット、チョット。」といって、よっちゃんの頭の上から、このとき呼ぶものがあります。よっちゃんは、ぱっちりした目を上に向けますと、茶だんすの上にのせてあった、目ざまし時計が、いつもの円い顔をして、にこにこ笑っているのでありました。
 よっちゃんは、いつもおなじところに、じっとしている時計をば不思議そうにながめていました。たまには、歩いて、ほかへ動きそうなものだとおもったからです。
 だまって見ていると、時計が、
「チョット、チョット。」と、おなじいことをいっています。
 よっちゃんも、時計を見上げて、にっこり笑いました。
「うま、うま……。」といって、かわいらしい手をあげて、時計の方へさし出しました。けれど、時計は、お菓子をくれませんでした。やはり、笑っているばかりでした。よっちゃんは、じつに、さびしくなって、泣き出しました。すると、お母さんが、あちらから、あわてて駈けてきました。
「よっちゃん、お目が、さめたのかい。」



「よっちゃん、そうお菓子ばかり食べるとぽんぽんが痛くなりますよ。」と、お母さんはいわれました。お菓子を食べてしまうと、よっちゃんは、すぐに、また、その後から、「お菓子……お菓子。」とねだって、お母さんが、なんといっても、ききわけがなかったのです。茶だんすの上には、いつもの目ざまし時計が、円い顔をしてこの有り様を見ていました。このとき、お母さんは、茶だんすの上にあった、目ざまし時計を指しながら、「あの長い針が、ぐるりとまわったらお菓子をあげましょうね。」といわれました。よっちゃんは茶だんすの上の円い時計を見ています。しかし、長い針が、なかなか早くは、まわりませんでした。「ねえ、お菓子……おかあちゃん! お菓子くれないの。」と、よっちゃんはいいました。
「この長い針が、ここまできたら、あげますよ。それでなければ、だめ。」と、お母さんは答えました。よっちゃんは、指をくわえながら、うらめしそうな顔つきをして、時計をながめていました。



「チョット、チョット。」と、時計は、よっちゃんが、昼眠をして目をさますと、頭の上でいつものごとく呼びかけました。よっちゃんは、そのたびに、びっくりして、ぱっちりとした目で、一度は、きっと時計の円い顔をながめましたが、黒い、長い針を見ると、お菓子のほしいときにも、意地悪をして、なかなか早くは動いてくれないことを思って、もうその顔を見たくもなかったのでした。しかし、よっちゃんの力では、その長い針をどうすることもできなかったのです。なぜなら、時計の円い白い顔の上には、厚い、ぴかぴかと光るガラスが張…

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