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花と少女
はなとしょうじょ
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 4」 講談社
1977(昭和52)年2月10日
初出「赤い鳥」1924(大正13)年5月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者へくしん
公開 / 更新2020-08-09 / 2020-07-27
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 ある日のこと、さち子は、町へ使いにまいりました。そして、用をすまして、帰りがけに、ふと草花屋の前を通りかけて、思わず立ち止まりました。
 ガラス戸の内をのぞきますと、赤い花や、青い花や、白い花が、みごとに、いまを盛りと咲き乱れていたからです。
 まだ、春にもならなかったので、外には、寒い風が、しきりに吹いていました。しかし草花屋の温室には、スチームが通っているので、ちょうど五、六月ごろの雨のかかったように、しずくがぽたりぽたりとガラス戸の面を伝わって、滴っているのでした。
 これらの花は、いずれも、もとは熱帯地方からきたので、こんな寒いときには、咲かないものばかりでした。太陽が、もっと近く、そして、風がやわらかになり、暖かくならなければ、圃には咲かないのでした。
 さち子は、扉を開けて、その草花屋の内へはいりました。すると、ヒヤシンスや、リリーや、アネモネや、その他のいろいろな草花から発する香気がとけ合って、どんなにいい香水の匂いもそれにはおよばないほどの薫りが、急に、顔や体を襲ったのでした。
 彼女は、しばらく、ぼうっとして、酔い心地になってしまいました。なにか、自分の好きな花を買って帰ろうと思いました。そして、どの花がいいだろうと、みまって歩いていますうちに、彼女は、そばのびんの中にさしてあった、赤と、白の二種のばらの花を見つけたのでした。
 そのばらの花は、根のついていない切り花にしかすぎませんでした。けれど、その花から放つ匂いは、この中のすべての花から発する匂いよりは、ずっと高く、よかったのであります。
 彼女は、赤いばらの色を見ると、なんとなく飛び立つような思いがしました。
「どうか、この花をくださいな。」と、彼女は、花屋の主人にいったのです。
 主人は、そばにやってきて、
「赤と白と二本でございますか。」と、たずねました。
 彼女は、
「ええ、そうです。」と、うなずきました。
 主人は、よく咲いた、花弁を落とさないように、注意深く、二本のばらを抜きながら、
「これは、まだ、早いからお高いのですよ。」と、念を押して、それを紙で巻いてくれました。
 さち子は、二本のばらの値があまり高いのでびっくりしました。けれど、いまさら、どうすることもできないような気がして、財布の中のお金をほとんど空にして買ったのでありました。
 さち子の兄さんは、絵が、たいそう上手でありました。よく、いろいろな形をしたつぼに草花を活けて、それを写生したものであります。さち子は、よくそれを覚えています。
「兄さんが、家においでたら、どんな高い花を買って帰ったっていいけど、絵にかくのでもないのに、こんなに高い花を買って帰ったら、お母さんにしかられはしないだろうか?」と、彼女は、草花屋を出ると心配したのであります。
 往来に出ると、風が吹きすさんでいました。それは、温室の中で、寒さ…

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