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風船球の話
ふうせんだまのはなし
作品ID52984
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 4」 講談社
1977(昭和52)年2月10日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者栗田美恵子
公開 / 更新2020-10-08 / 2020-09-28
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 風船球は、空へ上がってゆきたかったけれど、糸がしっかりととらえているので、どうすることもできませんでした。
 小鳥が、窓からのぞいて、不思議そうな顔つきをして、風船球をながめていました。
「小鳥さん、おもしろいことはありませんか。」と、風船球はたずねました。
「おもしろいことですか、それはたくさんありますよ。いま、あちらの町の上を飛んできますと、にぎやかな行列がゆきました。お祭りがあるのでしょう……。また、あちらの港へは、大きな汽船がきて泊まっています。それは、りっぱな船でした。これから、私は、もっとおもしろいことをさがそうと思っているところです。」と、小鳥は答えたのであります。
「おお、私も、空へ上がって、自由に飛んでみたいものだ。」と、風船球は、ため息をつきました。
 小鳥は、風船球が、しきりに上がりたがっているのを見てわらっていました。そのうちに、どこへか姿を消してしまったのであります。
「ああ、あのかわいらしい小鳥は、どこかへいってしまった。いっしょに旅をしたかったのに……。」と、風船球はなげいていました。
 どうかして、空へ上ってみたいと風船球はなおも考えていましたが、これは、自分を捕まえている糸を説きつけるにかぎると悟りましたから、「なんで私を、そんなに苦しめるのですか。私が空へ上がったら、おまえさんもいっしょに愉快なめがされるじゃありませんか。私は、自分ひとりだけおもしろいめをしたいというのではありませんよ。」と、風船球は糸に向かっていいました。
 糸は、お嬢さんのいいつけを守っているのであります。しかし、風船球が、自分ひとりで楽しむのでない、いっしょに愉快なめをしたいといったのをききますと、なるほどなと考えました。なぜなら、自分も、こうしていたのでは、いつまでたっても、おもしろいめがされなかったからです。
「いや、お嬢さんに対してすまないから、どうしても放すことはできない。」
と、糸は答えました。
「そんな、がんこなことをいうものでありませんよ。いま、あの小鳥が話したことを聞かなかったのですか。町には、にぎやかな行列が通るというし、港には、大きな汽船がきているということでした。はやくいって、それを見たいという考えにはなりませんか。」と、風船球は糸をそそのかしたのです。
「なるほどな。」と、糸は感服しました。
「じゃ、私は、たんすの環から離れて、あなたといっしょについてゆきますよ。」と、糸はいいました。
「さあ、早く、お嬢さんに見つからないうちに、二人は、この窓から逃げ出しましょう。」と、風船球と糸とは、相談をきめてしまい、やがて、紫色の風船球は、長い白い糸をしりにぶらさげながら、窓から飛び出して、空へ空へと上ってゆきました。
 お嬢さんは、へやへはいると、たんすの環に結んでおいた、風船球がなかったのでびっくりしました。これは、いたずらな弟が…

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