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花と人間の話
はなとにんげんのはなし
作品ID52985
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 4」 講談社
1977(昭和52)年2月10日
初出「童話」1924(大正13)年7月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者へくしん
公開 / 更新2021-03-10 / 2021-02-26
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 あるところに、おじいさんと、おばあさんとが住んでいました。その家は貧しく、子供がなかったから、さびしい生活を送っていました。
 二人は、駄菓子や、荒物などを、その小さな店さきに並べて、それによって、その日、その日を暮らしていたのです。
 あるとき、おじいさんは、どこからか、小さな常夏の芽をもらってきました。それを鉢に植えて水をやり、また、毎日、日あたりに出して生長するのを楽しみに丹精をいたしました。
 木によらず、草によらず、また人によらず、すべて小さなときから、大きくなるには、容易のことでありません。いろいろの悩みや、苦痛や、骨おりがそれに伴うものです。
 おじいさんは、常夏を大きな雨に当てないようにしました。また、風の強い日は、外へ出さないようにしました。こうして、一夏すぎましたけれど、常夏はそう大きくはなりませんでした。小さなつぼみを一つ、二つつけましたけれど、それが咲かないうちに、秋となり、冬となってしまいました。おじいさんは、霜にあててはならないと思って、家の中へいれておきました。そして、日の当たるときだけ、窓ぎわに出してやりました。けれど、とうとうそのつぼみは開かずにしまいました。
 おじいさんは、来年の春になるのを待ったのです。ついに、その春がきました。すると、常夏の芽は、ぐんぐんと大きくなりました。はじめは、細い枝が、二本しかなかったのが、たちまちのうちに、三本になり、四本となり、細かな葉がたくさんついたのであります。そして、夏のはじめのころには、真紅な花が、いくつも咲きました。
「おばあさん、こんなに、常夏がよくなった。」と、おじいさんは、いいながら、水をやって、常夏の鉢を店さきに飾っておきました。
 しかし、これほどの常夏は、ほかにいくらでもありました。まだ、たいしてりっぱな常夏ということができません。
 ちょうが、どこからか飛んできて、花の上へとまりました。最初は、それは、おじいさんの目を喜ばしましたのですけれど、ちょうがたくさんの卵を産んでいって、あとから、青い裸虫が無数に孵化して、柔らかな芽や、葉を食べることを知りますと、おじいさんは、葉についた虫を取ってやったり、また、ちょうが飛んできて止まろうとするのを追ったりして、それは、人の知らぬ苦心をして、花をいたわってやったのであります。
 こうして、おじいさんのひと通りでない骨おりによって、常夏は、ますますみごとに生長をいたしました。
 三年めには、それは、ほんとうに、みごとな常夏になりました。店さきに置いてあったのを通りすがりの人が振り向いてゆくようになりました。
「なんというりっぱな常夏だろう。」
と、前を通る人が、いってゆきました。
 家の内にいて、おじいさんは、これを聞くと得意でありました。
「そうとも、私が、子供を育てるように、大事にして、大きくしたのだったもの。」と、おじ…

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