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きんまくわ
きんまくわ
作品ID52995
著者槙本 楠郎
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本児童文学大系 三〇巻」 ほるぷ出版
1978(昭和53)年11月30日
入力者菅野朋子
校正者雪森
公開 / 更新2014-07-16 / 2014-09-16
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 つばめは、まいあさ早く、すずしいたんぼの上へ、ツーイ/\ととんで来ました。そして身がるさうに、ななめにとんだり、クルリとひつくりかへつたり、作物の頭とすれすれにとんだりして、目をさましたばかりの作物に、かう挨拶していきました。
「みんな、おはやう。かはつたことはありませんか?」
 すると、朝露にぬれた作物たちは、みんな顔をあげて、つばめに挨拶しました。
「つばめさん、おはやう。かはつたことはありません。」
 作物たちは、自分の新芽や葉を食べるわるい虫を、みんな、つばめにとつてもらつてゐたのです。だから、まいあさつばめが見まはりに来ると、かう挨拶してゐたのです。
 ところが、ある朝、つばめがツーイ/\と、とんで来て見ますと、畑のまん中で、作物たちの、喧嘩がはじまつてゐました。よく見るとそれは、なすときんまくわとでした。
「らんばうぢやありませんか。ひとの体に蔓をまきつけるなんて。さあ早く、その手をはなして下さい。わたしは苦しくつて、息がきれさうです。ねえ、早くはなして下さい。」さう云つてゐるのは、顔のまつ黒い、脊の低い、なすでした。
「だつて、ぼくは蔓があるんで、ブラ下つてみたくてたまらないんだ。へちまのやうに高いところにブラ下つて、すずしい風にふかれてみたいんだ。ぼくは体が金色だから、へちまやひようたんより、とてもきれいなんだ。だい一、きみがこんなところにゐるから、いけないんだ。強さうな体のくせに、ケチ/\云ふもんぢやないよ。」
 さう云つたのは、金色の顔をした、卵のやうなきんまくわでした。きんまくわは、畑中に蔓をのばして這ひまはり、それからなすの木に、いぢ悪くまきついてゐるのでした。
 なすは、泣きだしさうな声で、
「だつて、あなたは青瓜さんや、白瓜さんの仲間ですもの、地面をはふだけで、いいぢやありませんか。わたしにまきつくなんて、あんまり、ひどいぢやありませんか。わたしは、竹や棒ではありません。早くはなして下さい。ああ、くるしくつてたまりません。」
 けれど、いぢわるのきんまくわは、はなすどころか、グイグイと、一そうなすの体に、青い蔓をグルグルまきつけてしまひました。
 そこで、すぐそばに立つてゐた、赤いおひげのとうもろこしが、口をだしました。
「もし/\、きんまくわさん、あんたは少しらんばうのやうですね。なす君にしても、ぼくにしても、ひとに迷惑をかけぬやうに、自分の場所に、おとなしく立つてゐるのに、あんたは広い地面を、勝手にはひまはつたうへ、ひとの体にまきつくなんて! そんな、らんばうはよしたまへよ。」
 するときんまくわは、ひどく腹をたてて、
「なアんだ、赤ひげ君か。きみこそ、ひつこんでゐたまへ。あんまりおせつかいをしてると、君のひよろ長い体へも、この青い蔓をまきつけるよ。なまいきな!」
と、プリプリして、どなりつけました。
 とうもろこしも、それ…

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