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栗ひろひ週間
くりひろいしゅうかん
作品ID52996
著者槙本 楠郎
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本児童文学大系 三〇巻」 ほるぷ出版
1978(昭和53)年11月30日
初出「お話の木」子供研究社、1937(昭和12)年11月
入力者菅野朋子
校正者雪森
公開 / 更新2014-07-19 / 2014-09-16
長さの目安約 11 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

「おい/\、みんな、よう聞け。今日はもう三時まへだから、通草をとつたり、野葡萄をとつて食つてちや、あかんぞ。今日は、一番おしまひの日だからな。一人が四合以上ひろふんだから、ひろつた栗は、一つだつて食つちや、あかんぞ。」
 鎮守の裏山の雑木林にさしかゝると、もうあちこちに、栗の木が見えだしました。六人づれの先頭になつてゐた高一は、坂道をわざと後向きに登りながら、ガヤ/\さわぐみんなに、かう云ひました。この六人の男の子たちは、「栗ひろひ週間」のためにつくられた、五年生の第四組の者で、高一はその組長だつたのです。
「だつて高ちやん、おれはこの前、誰よりも一番よけいにひろつたんだぞ。ちつとぐらゐ遊んだつて、がまんしてくれよウ。」
 さつきから野葡萄ばかりさがしてゐた金太がさう云ふと、銀色の穂薄で頭をたゝき合つてゐた勇治と庄吉とが、すぐ口をそろへて云ひました。
「そんならぼくだつて、一番はじめの日は一升一合もひろつたんだから、がまんしてくれろ。いゝかア、高ちやん、組長?」
「よし、勇治、許してやる。ぼくだつてな、あのときは一升ぢかくひろつたぞ。それから二度ひろつたんだから、もう二升以上もぼくだけでひろつたい。よくひろつたなア、庄吉。よし、庄吉も許してやる。少しぐらゐ遊べエ。」
「ああ、ありがたい/\! ぼくにもお許しが出たアい!」
 さう云つて庄吉は、ドカ/\と坂道をかけ登つて、まだ後向きで歩いてゐる高一のまん前に行つて、クルリと向き直ると、ペロッと赤い舌を出して、後向きのまゝ歩きだしました。すると勇治も金太も多喜二も、一番小さい松雄も、みんなそのとほりの真似をしました。と思ふ間に、庄吉がすべつてころんだので、せつかく後向きになつて舌を出したばかりの四人も、バタ/\と尻餅をついて、将棋だほしにころげてしまひました。
「ほれ見ろ、罰があたらア。ハハア!」
 高一が上から見下して笑つたので、みんなムクムクと起き上りました。そして色のさめた服や着物の尻をさすりながら、とり落した栗むきのヘラ棒や、下へころんで行つた竹籠を素早くひろひ上げました。
「いてエ/\。だが、面白かつたなア。」
「うん、面白かつたい。」
「尻が痛くて、面白かつたなア!」
 みんなニヤ/\笑ひました。
 道の両側には薄の穂がゆれ、あちこちに女郎花や萩の花が咲いてゐます。その間をくぐつて行くと、雑木林をもれる黄金色の秋の陽が眩しくキラ/\と、肩先や足下でゆれ動きます。てんでに栗の木をさがして空を仰ぐと、実のある栗のイガは見つからずに、高いところを白い雲が、しづかに舟のやうに流れて行くのが見えました。
「もう、あかんぞ。みんなのひろひかすだから、栗はないや。」
「よく見ろよ、あるぞ、あるぞ。ぼく、もう三つひろつたい。」
「ほんとかア? 早いなア。一つくれ。」
 すると高一が、林の向ふの方から呼びました。
「お…

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