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月夜のかくれんぼ
つきよのかくれんぼ
作品ID53001
著者槙本 楠郎
文字遣い新字新仮名
底本 「日本児童文学大系 第三〇巻」 ほるぷ出版
1978(昭和53)年11月30日
入力者菅野朋子
校正者雪森
公開 / 更新2014-07-24 / 2014-09-16
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 きれいな、えひがさのようなお月さまが、ぽっかりと東の空にうかんで、ひろい田んぼはクリーム色にかすんでいました。
 田んぼは、いちめんに、き色とみどりのなの花ばたけで、ひるまのあたたかさが、そこらじゅうにこもっていて、うっとりとするようななの花のにおいが、むせっぽくただよっています。
「みんな、みんな、でておいで、
なの花月夜だ。まだ、よいだ。
かくれんぼするもの、よっといで……」
 どこからか、うたうように子どものこえがきこえたと思うと、かすんだ田んぼの、あちこちの小さな家から、たちまちころころとかけだしてきて、なの花ばたけのわきの、おじぞうさんのまえの道へ、子だぬきのような子どもが集りました。ちょうど六人です。
「みんな、みんな、でておいで、
なの花月夜だ。まだ、よいだ。
かくれんぼするもの、よっといで……」
 六人がワになって、もう一どうたうと、またあちこちの小さな家から、ころころと小さな子どもが五人ばかりかけだしてきて、なかまにはいりました。
「もう、みんなきたね。」
 そこへまた、なの花ばたけの小道から、二・三人の子どもが、かけよってきました。
「もう、みんなきたね。」
「もう、はじめよう。」
 かわいい子どもたちは、まん丸いワになって、ジャンケンをはじめました。うたうようにかけごえをして、おどるようにはねながら。
「ジャンケン、ポンよ。あいこでしょ。」
「ジャンケン、ポンよ。あいこでしょ。」
 お月夜は、まだよいのくちで、子どもたちは野良からかえったおやたちと、やっといま、ゆうはんをたべおわったばかりなのでした。
 えひがさのようなお月さまが、ほんのりと、あたたかそうにてって、うっとりする、きれいな、なの花月夜です。
 ジャンケンで鬼がきまると、みんなはひとりの男の子をのこして、バラバラと、てんでにけむった月夜の、ひろいなの花ばたけのあちこちへ、ちらばっていきました。
「ひィ…… ふゥ…… みィ…… よォ……」
 鬼になった男の子は、石のおじぞうさまのまえにしゃがんで、手でかおをおおい、かぞえつづけました。
 十ずつ、十ぺんかぞえると、かおから手をはなし、スックと立って、なの花ばたけにむかって、よびかけました。
「もう、いいかい?」
 すると、ボウとかすんだなの花ばたけのむこうのほうから、二・三人のこえが、ゆめの中のこえのようにひびいてきました。
「もう、いいよう……」
 小さな鬼は、なの花ばたけのほそいあぜづたいに、きえたこえのほうへ、ころがるように走ります。みだれ咲きのなの花に、からだがさわると、ヒラヒラと花びらのちるように、あちこちからチョウチョウがとびだしました。
「もう、いいかい?」
 鬼の子どもが、またよびかけると、
「もう、いいよう……」
と、目のまえにひろがるなの花ばたけのあちこちから、こだまのようにこえがひびいてきました。
 小…

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