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幸福の鳥
こうふくのとり
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 6」 講談社
1977(昭和52)年4月10日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者栗田美恵子
公開 / 更新2020-11-07 / 2020-10-28
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 寒い、北の方の小さな町に、独り者の男が住んでいました。べつに不自由はしていなかったが、口癖のようにつまらないといっていました。
「もっと、おもしろく、暮らされないものかな。」と、知った人にあうごとに、たびたびもらしていました。
 また、同じ町に、かわったおじいさんが、住んでいたのです。このおじいさんは、昔の古い本を見ていました。なんでも、当世のことよりか、昔のことが好きで、古い本に書いてあることを信ずるというふうでした。そして、いつも、縁の太い大きな眼鏡をかけていました。
「人間の造った、機械には狂いがあるが、お日さまのお歩きなさる道にちがいはない。」といって、おじいさんだけは、日時計を置いて、時刻を見たので、万事、おじいさんのすることはそういうふうだったのです。
       *   *   *   *   *
 ある日のこと、男が、このおじいさんに向かって、いつものように、さもつまらなそうな顔つきをして、
「こう毎日、空が曇って、陰気ではしかたがありません。おじいさん、なにか、愉快な幸福の身の上となることは、できないものでしょうか。」と、たずねたのであります。
 おじいさんは、短い、綿のたくさんはいった、半纒を着ていました。そして、大きな眼鏡の内から目をみはって、若者の顔を見ていましたが、
「おまえさんは、他国へ出かける気があるか。」と聞きました。
「おじいさん、幸福に暮らせるものなら、私は独り者です。どこの国へでもまいります。」と、男は答えた。
 すると、おじいさんは、考えていましたが、
「もう、みぞれが、三度ばかり降ったな。」
「ちょうど、三度降りました。こんどは、雪が降るでありましょう。」
「じゃ、あの女が通る時分だ……。」と、おじいさんがいいました。
「どんな女がですか?」
 おじいさんは、古い書物から、目を放して、
「この家の前の往来を、さんごの沓をはいて、青い珠のついているかんざしをさした、若い女が歩いてゆくから、見つけて、その女をいたわってやんなさい。その女は、船に乗って、南の町へ帰るだろう。こいというたらついてゆくのだ。
 船は、白い帆をあげて、青い海をゆくであろうから、幾日も、幾日もかかるにちがいない。けれど、そのうちにあたたかな風が吹いてきて、南へ、南へと船は走ってゆく。そして、とうとう、遠いその町へ着く。小さいけれどきれいな町だ。女は、北の国で、心細い旅をしているときに受けたご恩を返すために、いろいろていねいにしてくれる。おまえは、その町に住むことになる。山には、黄色に、果物が実っているし、流れのふちにも、野原にも、赤い花が咲いている。おまえはこんないいところはないと思う。生まれてから、はじめて、のびのびとした気持ちで、好きな笛を吹く。ことに、月の清らかな晩に、遠い故郷のことなどを思いながら、笛を吹く。澄んだ音色が、月の光に溶け合…

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