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はちとばらの花
はちとばらのはな
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 5」 講談社
1977(昭和52)年3月10日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者へくしん
公開 / 更新2020-09-24 / 2020-08-28
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 はちは、人間の邪魔にならぬところに、また、あんまり子供たちから気づかれないようなところに、巣をつくりはじめました。
 仲間たちといっしょに、朝は早く、まだ太陽の上らないうちから、晩方はまたおそく、まったく日の沈んでしまうころまで、せっせと働いたのであります。
 彼らが、こうして働いているときに、この世の中では、いろいろなおもしろいことや、またおもしろくないことなどが起こっても、けっして、それに目もとまらなければ、また心のひかれるようなことがなかったほど、いっしょうけんめいであったのでした。
 ひまなとんぼが遊んでいたり、おしゃべりなせみが鳴いていたりする間に、はちはせっせと働いていました。
 一ぴきのはちは、巣を離れて、外へいっていて、すこし暇がとれたのでした。
「ああおそくなった。早く帰っておてつだいをしなければならぬ。」と思って、急いで、青い空の下を、自分たちの巣の方に向かって、一直線に走ってきました。
 すると、どうでしょう。留守の間にたいへんなことが起こりました。せっかく、幾日となく、日も夜も精を出して、やっと半分も造った巣は、たたき落とされてめちゃめちゃに砕かれ、そのうえに、仲間までが幾ひきとなく殺されていたからです。これを見て、はちは、気が遠くなるほど驚きました。そして、悲しみました。
「だれが、こんなことをしたのだろう?」と考えましたが、すぐそれは、人間のいたずら子がしたということがわかりました。
 そこへ、外へ出た仲間が、つぎつぎともどってきました。そして、みんなが、この有り様を見ておどろき、腹をたてぬものはなかったのです。
 砕かれた、巣のまわりを飛びまわり、どうしたらいいものかと思案に暮れました。憎いいたずら子を針で刺してやりたいと思いましたが、どこへ逃げたか、その子供らの、影も、形もあたりには見えませんでした。
「どうしたら、いいものだろうか。」
「また、巣を造り直そう。」
「そんな元気が、私たちにあるものか。」
 はちたちは、たがいに、思い思いの話をしましたが、すぐには、とても仕事が手につきませんので、いつかまたいっしょに働くこともあろうが、この悲しみの癒えるまでは、みんなが別れようということになりました。
 一ぴきのはちは、あてもなく、そこから立ち去りました。そのときの気持ちはどんなにさびしかったでしょう。空を飛んでくると、下に花園があって、美しいばらが、いまを盛りに咲いているのを見ました。
 はちは、つい降りる気になって、そのばらの上へとまり、いい香いを思う存分吸うことにしました。クリーム色の美しい花は、なんの心配もなさそうに、愉快げに見えます。これにくらべて、はちは、心に悲しみがあったので、ひたすらばらの身の上をうらやまずにはいられませんでした。花は、その明るい顔を向けて、「あなたは、どうなさいましたのですか。」と、はちに向か…

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