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海の踊り
うみのおどり
作品ID53123
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 6」 講談社
1977(昭和52)年4月10日
初出「少女画報」1929(昭和4)年8月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者へくしん
公開 / 更新2022-01-24 / 2021-12-27
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 日本海の荒波が、ドドン、ドドンといって岸を打っています。がけの上に、一本の松の木が、しっかり岩にかじりついて、暗い沖をながめて、嵐にほえていました。
 そこへ、どこからともなく、紅い、いすかが飛んできて、松の木にとまりました。
「松の木さん、なんで、そんなに腹だたしそうにどなっているのですか?」といいました。
 松の木は、頭の毛を逆立て、いまにも岩からはなれて、沖の方へ飛んでゆきそうな、いらだたしげなようすをしながら、
「まだ、あの船が見えないからだ……。」と答えました。
 いすかには、ただ、それだけ聞いたのでは理由がわからなかった。
「あの船って、どんな船ですか。それにはだれか、あなたのお知り合いの方でも乗っているのですか。」と聞きました。
 ぶっきらぼうの松の木は、いすかにくどくど聞かれるのを好きませんでした。なぜなら、自分の心配をひとに話したって、どうなるものでもなく、また、それにかかわりのない他人が聞いても、なんのためにもなるものでないと思われたからです。で、この小鳥を枝から振り落としてしまおうかと思ったが、黒い目をした、りこうそうな顔つきを見ると、そうもできなく、松の木は、ありのままの話をして聞かせました。
「英吉という、若者の乗っている船が、二、三日前に沖へ出たが、まだもどってこない。それに、海はこのような嵐なのだ。あの高い浪を見るがいい。どんなに、強いきかぬ気の若者でも、これを乗り切ることはできまい。おれはそう思うと気が気でなく、こうして、夜となく、昼となくほえているのだ。」と、松の木は、いいました。
 紅い、いすかはしっかりと、小枝につかまって、耳を傾けて聞いていたが、
「その若者とあなたとは、どんな関係があるのですか?」とたずねました。
「おお、それを話そう。そうだ、雪のたくさん降った年だった。おれは、頭の上にかかる雪をはらっても、はらってもあとから降って、だめだった。あの野原や、小山に生えているような松の木とちがって、おれは、ひどい嵐にも、また雪にも負けるものじゃない。それが、とうとうその年ばかりは、雪の重みに堪えずに、根もとから二つに裂けてしまった。それどころか、もうすこしのことで、おれの半分の体は、がけの下に落ちてしまうところだった。おれは、そうなるまいと我慢をした。そのうちに、待っていた春になったのである。海の水が紫色に見え、消えてしまったが、ただ、おれの体の傷口は、沖から吹いてくる寒い風にさらされて、痛んで、このまま過ぎたら、枯れてしまうとさえ思われたのだ。このとき、下の漁師村から、少年が、がけの上へ登ってきた。そして、おれを見ていじらしく感じた。たいていの子供たちなら、考えなしに、いたずらをして、無理にも引きはなしてしまうのを、『ああ、雪で裂けたのだな、こんながけの上で、岩にしがみついて、一日として平穏に暮らしたことのない木を…

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