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幼き日
おさなきひ
作品ID53124
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 6」 講談社
1977(昭和52)年4月10日
初出「少年倶楽部」1929(昭和4)年6月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者へくしん
公開 / 更新2021-07-05 / 2021-06-28
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 正ちゃんのお母さんは、かわいい坊やが、病気になったので、髪もとかさずに心配していました。
 お医者さまは、正ちゃんを診察して、
「なるたけ、静かに、寝かしておかなければなりません。」といったので、お母さんは、家に帰ると、ふとんをしいて、正ちゃんを眠らせようとしました。
 昨夜から、熱が高かったので、気持ちがいらいらしているとみえて、正ちゃんは、よく眠りませんでした。そして、むずかって、だだをこねてお母さんを困らせたのであります。
「さあ、おとなしくして、ちっとの間、ねんねなさいね。じきによくなりますから。」と、お母さんは、どうかして静かに、寝かしつけようとしていました。
「ねんね、ころころ、ねんねしな、
 坊やは、いい子だ、ねんねしな。」
 お母さんは、正ちゃんを抱いて、子守唄をうたいながら、へやのうちを歩きまわりました。そのうちに、やっと、正ちゃんは、すやすやと眠ったようでした。お母さんは、そっとふとんの上へおろして、
「あの山、越えて、どこへいった。」
 口で子守唄をうたいながら、なおも、坊やの脊中をトン、トンと、軽くたたいていました。昨夜から、よく眠らなかったので、疲れたとみえて、正ちゃんは、ほんとうに、よく寝ついたようです。
「ああ、いいあんばいだ。」と、お母さんは、やっと脊中をたたくのをやめて、ほっとしました。
「どうか、すこしでも長く眠ってくれればいいが……。」と、自分の眠らなかったことや、疲れたことなどは、まったく、忘れて、すやすやと眠っている正ちゃんの顔をながめていました。
 このとき、あちらから、らっぱの音が聞こえました。つづいて、パカ、パカという、馬蹄の音が、したのであります。
「あ、兵隊さんが、通るのだな。坊やは、起きなければいいが。」
 お母さんは、気をもみました。ちょうど、窓の外の往来を、兵隊の列が通るのであります。平常は、勇ましいらっぱの音も、また、坊やが元気でいて見たなら、さぞ喜ぶであろうお馬のひづめの音も、このときばかりは、にくらしくなりました。
「どうぞ、坊やが、目をさましませぬように……。」と、お母さんは、口のうちで、神さまに念じていました。
 とうとう坊やは、目をさまさずに、兵隊の列は通過してしまいました。ほがらかならっぱの音も、なんとなく勇ましい馬のひづめの音も、だんだん小さく遠くなってしまいました。
「やれ、やれ。」と、お母さんは、いって、家のなかをかたづけにかかりました。正ちゃんが、病気になって、驚いたり、手当てをしたり、医者へつれていったりしたもので、あたりは、ちらかりほうだいになっていたからです。
「こんど、目をさましたら、この水薬を飲まさなければならない。」と思って、お母さんは正ちゃんのまくらもとに、薬のびんをおきました。
 すると、あちらから、こんど☆羅宇屋が、ピイー、ピイーと、笛を鳴らして、屋台車を引き…

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