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お父さんの見た人形
おとうさんのみたにんぎょう
作品ID53125
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 6」 講談社
1977(昭和52)年4月10日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者へくしん
公開 / 更新2021-10-08 / 2021-09-27
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 娘の父親は、船乗りでしたから、いつも、留守でありました。その間、彼女は、お父さんを恋しがっていたのです。
「いまごろは、どこに、どうしておいでなさるだろうか?」
 こう思うと、少女の目には、はてしない青い海原がうかびました。そして、その地平線を航海している、汽船の影が見えたのであります。
「もう、いくつ眠たら、お父さんは、お帰りなさるだろう?」
 彼女は、毎日、恋しいお父さんの帰りをば待っていました。
 娘が、こうして、家で思っているように、船に乗っている父親は、また、子供のことを思っていました。
「どんなにか、私の帰るのを待っているかしれん……。」
 父親は、汽船の甲板の上に立って、これから、船の着こうとする港の方をながめていました。そして、指を折って、故郷へ帰る日のことなどを考えていました。
 娘には、母親がなかったのです。彼女の小さな時分に、お母さんは、なくなってしまった。彼女が、父親を慕ったのも、父親が、一倍娘をかわいがったのも、そのためでありました。
 たとえ、父と子は、たがいに思っても、幾千マイルとなく隔たっていました。そして、まだ、なんの陸らしいものも目にはいりません。ただ、夏雲が、水の上に漂っているかと思うと、いつしか、それは消えてしまいました。
 こうして、幾日かの航海をつづけた後で、やっと、かなたに陸が見えたのでした。船に乗っているものは、みんな喜んで、甲板に出て、その方を望み、叫び、手をたたいて、躍りました。久しぶりで、港に着いたからです。
 けれど、この港に着いて、この父親の乗っている、船の航海は終わるのでありません。さらに、いくつかの港へ寄らなければならなかったのでした。
「どうか、私の帰るまで、家に、なんの変わりもなくてくれるように……。」と、父親は、心で祈っていました。
 汽船が、港に着くと、人々は、陸を見物するために、あがったのです。父親も、ぶらぶらと歩いてみました。どこの船着き場も、そうであるように、街はにぎやかでした。酒場もあれば、宿屋もある。また諸国の雑貨を商う店などが、並んでいます。ここに、夏の晩方であって、芸人が、手風琴などを鳴らし、唄をうたって、往来を流していました。
「あれは、支那人かしらん……。」と、ちょっと父親は、立ち止まって振り向いてみました。
 街には、小路が、いくつもありました。
「なにか、珍しいものでも、見つからないか。」と考えて、一つの小路をはいって、店頭を見ながらいったのです。
 すると、小さな古道具屋がありました。店は、狭く、なんとなくむさくるしかったけれど、いろいろな道具が並べてあった。燭台の古いのや、南洋の土人が織ったような織物や、またオランダあたりからきたつぼや、支那人の腰掛けていたような椅子や、ストーブのさびたのなどまで置かれてありました。
「なるほど、港町の道具屋らしいな。」と思って…

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