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温泉へ出かけたすずめ
おんせんへでかけたすずめ
作品ID53126
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 6」 講談社
1977(昭和52)年4月10日
初出「赤い鳥」1928(昭和3)年3月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者へくしん
公開 / 更新2021-08-18 / 2021-07-27
長さの目安約 11 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 雪が降って、田や、畑をうずめてしまうと、すずめたちは、人家の軒端近くやってきました。もう、外に落ちている餌がなかったからです。朝早くから、日暮れ方まで、窓の下や、ごみ捨て場などをあさって、やかましく鳴きたてていました。
 そのうちに、どこからか、彼らに向かって、空気銃をうったものがあります。一羽のすずめは、羽の付け根のあたりを傷つけられました。そして、もうすこしでその場にたおれようとしたのを、がまんして、やっとあちらの森まで、息をせいて飛んでいきました。
 ほかのすずめたちも、この思いがけないできごとに出あって、どんなにおどろいたかしれません。
「ああ、怖ろしかった。」といって、あるものは、畑の中のかきの木の枯れ枝に止まり、あるものは、屋根の上に飛んでいって、目をみはっていました。
「どこから、あんな弾丸が飛んできたのだろう……。」と、彼らは、注意深く、あたりをながめていました。
 しかし、意地ぎたない、これらのすずめたちは、また時がたつと、餌のありそうなところへおりていきました。こんどは、前のように、口やかましく、しゃべるかわりに、目を四方へくばって、注意を怠らなかったのであります。
 ひとり、傷のついたすずめは、彼らの仲間入りをすることができなかった。そんな勇気がなかったばかりでなく、傷口が痛んで、血がにじんでいたのです。
 すぎの木の枝に止まって、体をふくらませて、哀れなすずめは寒い風に吹かれていました。すずめは、いつ、その体が、高い木の枝から下へ落ちないとはかぎらないと思ったほどふらふらしていました。
 もはや、彼は、空腹を感ずるどころでありません。ただ、うとうととして、苦痛をこらえて、目を開けたり閉じたりして、木の枝にしがみついているばかりでした。そのうちに、日は、まったく、暮れかかったのです。
 そこへ、曇った空に、羽音をさせて、一羽のからすが飛んできたかと思うと、ちょうど、すずめの止まっている上の枝にきて下りました。すずめは、夢うつつの間に、自分は、とびにさらわれたのでないか? それでなければ、あのすばしこい小たかにとらえられたのでないか? と気をもみましたが、いまは、どうすることもできなかった。傷ついた身を運命にまかせるよりしかたがなかったのでした。
「すずめさん、どうなさいました? たいへんに元気がないようだが、気分でも悪いのですか……。」と、からすが話しかけた。
 すずめは、いま、自分の身は、猛鳥に捕らえられると思っていたのに、思いがけない、やさしい声で、からすにこうたずねられると救われたような気がしました。
「うたれたのです……。弾丸にあたったのです……。」と、すずめは、ふくれながら、目を、白黒さして、哀れな声で答えた。
「え、鉄砲でうたれたんですか。ど、どこをやられました?」と、からすは、上の枝から、すずめのそばへ降りてきて、傷のつ…

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