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その日から正直になった話
そのひからしょうじきになったはなし
作品ID53132
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 6」 講談社
1977(昭和52)年4月10日
初出「赤い鳥」1927(昭和2)年9月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者へくしん
公開 / 更新2021-06-20 / 2021-05-27
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 あるところに、気の弱い少年がありました。いい少年でありましたけれど、気が弱いばかりに、うそをついたのです。自分でも、うそをつくことは、よくない、卑怯なことだということは知っていました。
「もう、これから、私はうそはつかない。」と、うそをいった後では、いつも少年は心にそう思うのでした。
 けれど、それは、悪いと思われないような場合もありました。たとえば、病人に向かって、
「このあいだよりも、ずっとお顔の色がよくおなりです……。」というと、実際は、そうでなくても、病人を喜ばすものである。こんなときのうそは、かならずしも悪いのでない。もし、そういうことができれば、
「僕は、昨夜、お化けを見たよ!」といって、なにか畑の中にあったものを見て、空想にふけったことをまことしやかに、友だちに話すと、つまらなそうな顔つきをしていた友だちらが、急に目を輝かして、近くそばへ集まってきて、
「君、ほんとうかい……。」というのであります。
「ああ、ほんとうだ。」と、少年は、熱心に、空想したことを、見たことのように話すのでした。
 この少年のうそというのは、たいていこうした罪のない、ちょっとみんなをおもしろがらせようとする種類のものでした。
「自分のうそは、けっして、悪いうそではないのだが、それでも、いってはいけないものだろうか?」と、少年は、自分の心に向かって、たずねました。
「それは、いけないにきまっている。うそをつくのは、人間として、卑怯なことだ。」と、自分の心と思われない、なんだか年とった、太い声が答えます。
 このとき、同時に、それを打ち消すように、自分より、ずっと勇敢な、いきいきした、やはり、それも自分の心と思われないような声が、
「そんなうそは、いったってさしつかえない。小説でも、文章でも、みんな、うそのことを真実らしく書いてあるのじゃないか……。」といいました。
 少年は、この二つの異なった、自分の心のどちらに従ったがいいか迷ってしまいました。
「小説はうそをつくものだということはわかっているが、おまえのいうことがうそだとわかれば、だれもおまえを信じなくなるだろう。」と、年とった太い声がいいました。
 こうして、少年は、つねに、自分の良心をとがめながら、気が弱いので、ついみんなを笑わせたり、喜ばせたりしたいために、うそをつく癖を改めることができなかったのでした。
 そのうそは、無邪気なものであっても、それをほんとうにした人は、あとでうそということがわかると、ばかにされたと思った。そして、だんだんみんなは、この少年を信用しなくなったのでした。
「おまえは、いい子だけれど、ていさいのいいうそをつくので、悪い子になってしまった。」と、少年のお母さんは、いって、泣かれたことがあります。
 そのたびに、少年は、自分の悪い癖を改めようと努力しました。気の弱い少年には、なかなかそれ…

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