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三つのお人形
みっつのおにんぎょう
作品ID53136
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 6」 講談社
1977(昭和52)年4月10日
初出「キング」1928(昭和3)年11月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者へくしん
公開 / 更新2021-11-25 / 2021-10-27
長さの目安約 12 ページ(500字/頁で計算)

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本文より



 外国人が、人形屋へはいって、三つ並んでいた人形を、一つ、一つ手にとってながめていました。どれも、同じ人形師の手で作られた、魂のはいっている美しい女の人形でした。
 一つは、すわっていましたし、一つは立っていました。そして、もう一つは、手をあげて踊っていたのであります。
 どれを買ったらいいだろうかと、その外国人は、ためらっていましたが、しまいに、つつましやかにすわっているのを買うことにしました。それを箱にいれてもらうと、大事そうにして、店から出ていってしまいました。
 残った、二つの人形は、たがいに顔を見合わせました。そして、そばに、だれもいなくなると、お話をはじめたのです。
「とうとう、あの方は、いってしまいましたね。」
「わたしたちは、いつまでもいっしょにいたいと思いましたが、だめでした。このつぎには、だれが先にお別れしなければならないでしょうか……。」
 二つの人形は、心細そうにいいました。しかし、こうなることはわかっていたのです。美しい、三つの人形が、はじめて、このにぎやかな街の店さきにかざられたとき、通る人々は、男も、女もみんな振り向いてゆきました。きれいなお嬢さんや、奥さまたちまでが、うっとりと見とれてゆきました。人形は、世の中に、自分たちほど、美しいものはないと思うと鼻が高かったのです。そして、だれでもが、にこやかな顔つきで、やさしい目をして自分たちをながめますので、どこへいってもかわいがられるものと考えました。
「どんな人に、わたしは、つれられてゆきますかしらん。」と、三つの人形は、口々にいって、行く末のことを空想しますと、なんとなく、この世の中が、明るく、かぎりなく楽しいところに思われたのでした。
「どこへいっても、おたがいの身の上を知らせ合って、おたよりをしましょうね。」と、お人形たちは、いったのでした。いま、二つになりました。
「あの方は、外国へつれられてゆくのでしょうか。」と、踊りながら、一つの人形は、立っている人形にいいました。
「そうかもしれません。わたしは、外国へなど、ゆきたくないものです。けれど、あの方は、おとなしいから、どこへいってもかわいがられると思います。」
 こんなことを話していると、ふいに、店さきへ、娘さんが立ちました。そして、じっとふたりをながめていました。お人形は、急に、口をつぐんでしまいました。
 娘さんは、内へはいって、立っている人形を指さして、見せてくれといいました。それから、それを手に取ってよく見ていたが、
「これをくださいな。」といった。
 こうして、二つの人形は、ついに買われていってしまいました。そして、あとには、踊っている人形がただ一つだけ残ったのであります。三つの人形は、こうして、べつべつになってしまったので、もはや、お話をすることもできなくなりました。
「私たちの親しかったお友だちは、ど…

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