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明日はメーデー
あしたはメーデー
作品ID53188
著者槙村 浩
文字遣い新字新仮名
底本 「槇村浩詩集」 平和資料館・草の家、飛鳥出版室
2003(平成15)年3月15日
入力者坂本真一
校正者雪森
公開 / 更新2014-10-01 / 2015-03-14
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

古ぼけたぜんまいがぜいぜいと音を立てて軋る
もう十二時になるのに
あなたはまだ帰ってこない
くすぶった電球の下で
私はもう一度紙きれを拡げてみる
―――八時までにはかならず帰る
    待っていてください  T
前の道路を行くヘッドライトが
急に大きく
ぽっかりと障子にうつる
私はぎっくりして
寒い下着の襟をかき合わす
あなたはもう帰ってこない
あなたはセンイのオルグ
朝の四時
氷柱を踏んで私たちが工場へ急ぐ時
あなたはニコニコ笑いながら
電柱のかげからビラを渡してくれた
――賃銀三割値上げしろ!
――労働時間を七時間に!
――鬼のような見番制を廃止しろ!
――外出、外泊、通信の自由をよこせ!
――全協日本センイ××(1)分会の確立へ!
ゴジックで大きく書かれたその文句は
焼けつくように私の眼頭にしみ込んだ

毎日毎日
あなたは電柱のかげに立っていた
氷雨の降る朝でも
破けた傘にチビけた駒下駄をはいて
あなたは根気強くビラを渡してくれた
「ありがとうよ」
そういってビラを取る私たちの胸に
あなたの姿はなんというなつかしい印象を残したか
字なみの揃ったインクのかおりは
苦しい生活のなかで
どんなにか私たちを力づけたことか

そして私たちの分会ができた!
乾燥場の奥で私たちは最初の会合を持った
私たちのただ一つの組合である
全協!
その署名を見るたびに
私たちの胸には何かしら熱いものがこみ上げてきた
私たちはこの二字のなかに
全国の同じ工場のなかで
つきのめされ、疲れ切って
資本への憎しみにかたまっているおおぜいの兄妹を見た
旗をかかげ
腕を組んで
最後の日までのたゝかいに突き進む
何万の同志らの叫びを聞いた
私たちは集まって工新の発行を協議した
名前は「セリプレン」ときまった
「セリプレン」は二度めには百部出た
その時から
監督の顔色が険しくなり
スパイが工場のなかをうろつき始めた
毎日
不眠で眼をまっかにはらした見番が
何人かの名前を読み上げた
そして
フミちゃんも
しづちゃんも
呼び出されたきり帰ってこなかった

「赤い」というのを口実にしてそろ/\首切りも始まったし
おまけに一時間の居残り労働
積立金はビタ一文くれないで
「お国のために」しがない給料から天引きせねばならんという
「戦地にいる兵士のことを思って」とぬかしやがった社長のハゲチャビンめ
だれが働き手を戦場に連れ出したんだ
だれがもうけるために戦争を始めたんだ

アジビラは[#「アジビラは」は底本では「アシビラは」]毎日のように出たし
分会員の数は三倍にふえた
そこへ二割賃下げの発表だ
工場は急にどよめき出した
レンラクにいそいそとアジトへきた私なのに
立ち上がる日の近づいたという吉報をもって
あなたをよろこばせようとした私なのに
あなたはもう帰ってこない
どの街角であなたはあげられたのか
そし…

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