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小ねこはなにを知ったか
こねこはなにをしったか |
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作品ID | 53463 |
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著者 | 小川 未明 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「定本小川未明童話全集 5」 講談社 1977(昭和52)年3月10日 |
初出 | 「少女倶楽部」1928(昭和3)年1月 |
入力者 | 特定非営利活動法人はるかぜ |
校正者 | 江村秀之 |
公開 / 更新 | 2014-03-08 / 2014-09-16 |
長さの目安 | 約 11 ページ(500字/頁で計算) |
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親たちは、生き物を飼うのは、責任があるから、なるだけ、犬やねこを飼うのは、避けたいと思っていました。けれど、子供たちは、日ごろから、犬でも、ねこでも、なにかひとつ飼ってくださいといっていました。
ちょうど、そのころ、近所でかわいらしいねこの子が産まれたので、それを見てきた男の子は、これを姉さんや、小さい兄さんに話したので、三人は熱心に、お母さんのところへいって、ねこの子をもらってきてもいいでしょうと頼んだのであります。
お母さんは、下を向いて、仕事をしながら、どう答えていいものかと、しばらく考えていられましたが、
「お父さんがいいとおっしゃったら、飼ってもいいが、おまえさんたちに、その世話ができますか。なかなか手のかかるものですよ。」と答えられました。
これを聞くと、子供たちは、もしや、お母さんに、頭から、いけないといわれればそれまでだと思っていたのが、こうやさしくいわれると、半分は、もはや、自分たちの願いがかなったように思われて、三人の顔は、にこにことして輝きました。
「ねこの世話なんか、できますとも。だって、あんなにかわいらしいんだもの。」と、いちばん末の男の子は、叫びました。
「お父さんに、お願いして、いいといったら、飼ってくださいね。」と、兄のほうが、いいました。
「おお、うれしい。」と、姉も、いっしょになって、喜びました。
三人の姉弟は、お父さんの帰りを待っていました。そして、どうしても頼んで、それを許してもらわなければならないときめていました。
「三人で、その世話ができるなら、飼ってもいいが、おまえたちにできるかね。」と、お父さんは、笑っていわれました。
「できます。」と、姉弟は、答えて、とうとうかわいらしいねこの子を、近所からもらってきました。
小ねこは、同じ母親の腹から、いっしょに生まれた兄弟と別れて、この家にきて、こうして、長く養われることとなったのでありました。しかし、小ねこにとっては、それが、兄弟と永久の別れであったことはわかりませんでした。三人の姉弟は珍しがって、小ねこを下に置きません。小ねこもまた、みんなから別れてきたという悲しみを忘れて、はね上がったり、飛びついたりして、お嬢さんや、坊ちゃんたちと遊んだのであります。
三人は、自分たちが食べる前に、小ねこにご飯を造ってやりました。こんなふうに、小ねこがこの家へきてから、にわかに、家内じゅうが陽気になって、はや幾日か過ぎたのであります。そのうちに、小ねこは、いつまでも子供でなかった。そして、もはや、いままでのように、はねたり、飛び上がったりして遊ばなくなりました。
ちょうど、この時分から、三人は、ねこのめんどうを見てやることが、だんだんうるさくなったのでした。
「姉さん、ねこにご飯をおやりよ。」と、弟がいいますと、
「あら、ずるいわ。こんどは、私の番ではないわ。おまえ…