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初夏の空で笑う女
はつなつのそらでわらうおんな
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 5」 講談社
1977(昭和52)年3月10日
初出「童話」1925(大正14)年5月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者へくしん
公開 / 更新2019-07-06 / 2019-06-30
長さの目安約 11 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 あるところに、踊ることの好きな娘がありました。家のうちにいてはもとよりのこと、外へ出ても、草の葉が風に吹かれて動くのを見ては、自分もそれと調子を合わせて、手や足を動かしたり、体をしなやかに曲げるのでした。
 また、日の輝く下の花園で、花びらがなよなよとそよ風にひらめくのを見ると、たまらなくなって、彼女は、いっしょになってダンスをしたのであります。
 両親は、自分の娘をもてあましてしまいました。母親は、ダンスなどというものは、きらいでありましたから、
「もう、これほどまでいって、それでも聞かないで、踊りたいなら、おまえは家にいないほうがいいから、かってにゆきたいところへいって、踊りたいだけ、踊ったらいい。」と、母親はいいました。
 母親は、娘に裁縫を教えたり、また行儀を習わしたりしたいと思ったからです。けれど娘は、それよりか、自分かってに踊りたかったのであります。
「お母さん、私は、もっと旅へいって、踊りのけいこをいたします。そして、それで身をたてたいと思いますから、どうぞ、お暇をください。」と頼みました。
 両親は、いつか、娘が自身で気がつくときがあるであろうと思って、涙ながらに、それを許しました。
 娘は、あるときは、雲の流れる方へ向かって歩いていきました。また、あるときは、水の流れる方へ向かって、旅を続けました。そして、白壁や、赤い煉瓦などの見える、気持ちのいい町へ着きました。
 彼女は、町の中を歩いていますと、小さな劇場のようなところがあって、そこには美しい花の飾りがしてあり、旗などが立ててありました。そして、看板に、「どなたでも、踊りたいと思う人は、踊りなさい。歌いたいと思われる人は、歌いなさい。そのかわり、上手でなければ、人々が笑います。」と、書いてありました。
 彼女は、この劇場の前に立って考えました。
「踊りたいには、踊りたいが、上手に踊れるだろうか? 下手に踊って、人々から笑われやしないだろうか?」
 しかし、彼女は、べつに頼っていくところのきまった身でもありませんから、上手、下手はそのときの運命と思って、とにかく出て踊ることにしました。
 彼女は、みんなの前で踊りました。
「草の葉の踊り」
「赤い花のダンス」
 こうした、二つの踊りは、みんなに不思議な感じを与えました。みんなは、喜びました。拍手しました。彼女は、あたかも、なよなよと草の葉が風にもまれるように、柔らかに体を波打たせて踊りました。また、真紅に咲き乱れた花が、風に吹かれて、いまにも散りそうなようすを、手を振り、足を動かし、体をひねって、してみせたのであります。
「なんというおもしろい踊りだろう……。」と、みんなは口々にいいはやしました。
 ここに、金持ちのお嬢さまがありました。お父さんや、お母さんは、たくさんのお金を残して、この世の中から去られたので、お嬢さまはりっぱな、大きな…

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