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篁
たかむら |
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作品ID | 53482 |
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著者 | 北原 白秋 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「白秋全集 8」 岩波書店 1985(昭和60)年7月5日 |
入力者 | 岡村和彦 |
校正者 | フクポー |
公開 / 更新 | 2018-01-25 / 2017-12-26 |
長さの目安 | 約 14 ページ(500字/頁で計算) |
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序
我が長歌の総てを収めて、此の『篁』を成す。主として小田原の山荘にありて、竹林の日夕を楽しみ、移りゆく季節の風と光とに思を寄せたる、そのをりをりの古体を蒐めたり。
かの山荘はまことに篁の中にありて、その蕭々の音は、常に颯々たる松籟に唱和し、簡朴にしてそぞろに幽致にも満ちたりしかど、震災後、大破して繕ふに由なく、ただ辛うじて住むを得たりき。
我が長歌も亦かくのごとし。長歌とは言へども、あながち万葉の古体にもあらず、貧しき詩魂は時に新様の我趣を求めて、自ら姿容を破る。もとより流通するところの所縁ただに和歌の一体に繋ることをのみ幸とすべきか。また言ふところ無し。
昭和四年 暮春
白秋
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竹と我 序歌
眺めても眺めあきずよ 親しめば親しむがまま 幽けきもありのさながら かかはらず またさまたげず 竹は竹 我は我ゆゑ 竹がうれしも
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[#ページの左右中央]
言祝
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言祝
大君。日の本の若き大君。神ながら朗らけき現人神。青空やかぎりなき。国土やゆるぎなき。万づ世の皇統。皇孫や天津日継。ああ、我が天皇。大君。道の大君。大稜威。今こそは依り立たせ、けふこそは照り立たせ。高御座輝き満つ、日の御座ただ照り満つ。御剣や御光添ひ、御璽やいや栄えに、数多の御鏡や勾玉や、さやさやし御茵や、照り足らはせ。大君。我が大君。現つ神。神ゆゑに、雲の上の生日の光采りてますかも。
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最勝閣にまうでて
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最勝閣にまうでて詠める
長歌ならびに反歌
風速の三保の浦廻、貝島のこの高殿は、天なるや不二をふりさけ、清見潟満干の潮に、朝日さし夕日照りそふ。この殿にまうでて見れば、あなかしこ小松叢生ひ、辺にい寄る玉藻いろくづ、たまたまは棹さす小舟、海苔粗朶の間にかくろふ。この殿や国の鎮めと、御仏の法の護りと、言よさし築かしし殿、星月夜夜空のくまも、御庇のいや高々に、鐸の音のいやさやさやに、いなのめの光ちかしと、横雲のさわたる雲を、ほのぼのと聳えしづもる。しづけくも畏き相、畏くも安けきこの土、この殿の青き甍の、あやに清しも。
反歌
この殿はうべもかしこし白妙の不二の高嶺をまともにぞ見る
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春鵙
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冬ごもり
冬ごもりうらさびぬらし。隣りべは日のあたるよと、萩も枯れ萱も枯れぬと、よろしよと、見つつぬくもる、吾が和ぎごころ。
反歌
おのづからうらさびぬらし萩の戸のへだての垣も枯れて匂ひぬ
日あたり
つれづれと眺めあかぬを、枯れしとて萩は刈られぬ。ほほけしと薄も刈りぬ。ほのぬくみ刈りつる人も、うちたばね、かつぎていにぬ。日あたりの、となりの庭の、そのよろしさを。
反歌
枯れはてて萩は薄は刈られける日のたむろべのよろしみ…