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アラスカの氷河
アラスカのひょうが
作品ID53491
著者中谷 宇吉郎
文字遣い新字新仮名
底本 「日本の名随筆33 水」 作品社
1985(昭和60)年7月25日
入力者門田裕志
校正者川山隆
公開 / 更新2013-01-09 / 2014-09-16
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

アラスカ氷河の特徴

 アラスカの氷河は、景観の美しさという点では、世界第一といわれている。
 氷河の壮大な美しさは、ずっと昔から、文学者や地理学者たちの讚美の的であった。もっとも、近年までは、一般の人々が近づき得る氷河は、ほとんどアルプスの氷河に限られていた。それで氷河の美についての文献は、主として、アルプスの氷河についてのものが多かった。
 しかし氷河は、アルプスに限られたものではない。ヒマラヤやその周辺、いわゆる世界の屋根には、もっと壮大な氷河が、いくらもある、その他にも、南極大陸や、北極圏内のグリーンランドおよびカナダ群島の北氷洋岸には、ヒマラヤをしのぐ壮麗な氷河が、たくさんある。
 これ等の氷河の景観は、世人の想像をはるかに絶するもので、自然のふところに秘められた天工の美と、規模の壮大さとを、如実に示すものである。しかしその美に驚嘆することは、一般の人々にはできない。それは、現在のところはまだ、ごく少数の探検家たちだけが享受し得る天恵である。
 十年前までは、アラスカの氷河も、この部類に属していた。しかし定期航空路が、アラスカの沿岸に開かれた今日では、アラスカの氷河は、もはや探検家たちだけのものではなくなった。北方航空路をとる一般旅行者の眼にふれるものとなった。
 アラスカの氷河の代表的なものは、太平洋岸にある。アンカレージから、海岸にそって、カナダの方へ伸びた海岸地帯がそれである。この氷河の特徴は、氷河の末端が、海岸のすぐ近くにまで達している点にある。そしてそのうちのかなりのものは、直接海に流れ入っている。
 先年、ディズニーの映画で、氷河が崩壊して、海へ落ち込む場面を見せてくれたものがあった。氷河の末端は、三十メートルを越す氷の断崖となって、大洋に迫っている。北海の荒浪は、その氷の絶壁の根を噛んで、はげしく飛沫を散らしている。
 この白い絶壁は、如何にも千古の懸崖の如き様相を呈しているが、しばらく見ているうちに、上部の方に、徐々に縦の割れ目が入り、やがて絶壁の一部は、数百個の氷の大塊に割れて、海に崩れ落ちる。まさに息をのむばかりの壮烈な景観であった。
 こういう景色は、特別に船をやとって、氷河の末端に近づかないと、見られない。しかしその遠望は、飛行機の上からも容易に見られる。ノースウエスト機も、日航機も、氷河地帯のすぐ近くの海上を飛ぶからである。
 もっとも天候が問題である。冬の間は、日が短くて駄目、夏も北海特有の霧や、低い層雲が海上を埋め、氷河の上まで蔽っていることが多い。そういうときは、雲上飛行をつづけるだけで、何一つ見えない。ずっと北に延びたカナダロッキーの高峰が、雲上に頭を出していたら、それで満足するより仕方がない。
 アラスカの氷河は、このカナダロッキーに降った雪が、万年雪となり、それが渓谷にそって、太平洋測へ流れ下ったものである。ア…

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