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人真似鳥
ひとまねどり
作品ID53512
著者室生 犀星
文字遣い新字新仮名
底本 「日本の名随筆2 鳥」 作品社
1983(昭和58)年4月25日
入力者門田裕志
校正者川山隆
公開 / 更新2013-01-18 / 2014-09-16
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 懸巣は猛鳥で肉食鳥であるが、時々、爪を剪ってやるために籠から掴み出さなければならぬ。からだを掴まれることを厭がりあれ程狎れていても、嘴で確かりと咬み付く、咬みつくとブルドッグのようにどうしても放さない、二年間金アミの中で金の柵ばかり啄ついている嘴の尖端は鋭く砥がれていて、先の方で鍵型にちょっと曲り、手の肉にくい入るのである。爪でしっかりと指にしがみ附かれると、肉にくい入る。私は手袋をはめて掴むのであるが、手袋でないと傷がつくからである。
 生きている虫なら何でもくう。砂糖もなめるし林檎、みかん、柿、梨、何でも手当り次第にやるとくう。砂糖が何ともいえぬ程うまいらしい、うまい物は栗鼠のように咽喉の前の袋になっているところに入れて置いて、あとでゆっくり喰べるらしい。
 梅もどきや青木の実は口から出したり入れたり餌の壺の中に匿したり籠の隅の方に匿したりする。物をかくす習癖があるらしいのである。胡桃をすり込んだ日はよけいに食う。餌食の荒さはその性質の猛々しさを証拠立てている。
 鳥は鋭い眼をしている奴ほど眼が利くらしい。鷲などはその一例である。ことに懸巣の眼は円くて睨み続けているように美しい、何時か眉の毛を一本籠の中に入れたら、すぐ下りて来て咥えた程眼が利くのである。機嫌のよしあしは籠のそばに寄って行くと、籠のはりがねを啄ついたり咥えたりして騒ぐ、そんな時は甘いような擽ったいような顔附をしている。鳥でもこれほどに狎れるものかと思う。指を出してやると咥えてじっとしている。けれども身体に触ることを厭がり無理にさわると啄つく。
 鳥の表情にはいろいろあるが、音楽などを聞かせると、必ず首をまげて考え込むようなふうをする。これは人間でもそうであるが凡ゆる動物はみんな左うらしい、鳥の眼瞬きほど美しいものはないが、懸巣の眼瞬きは迅くてぴりぴりした神経的なものであって、何とも言えぬ美しさを持っている。欠伸をする時はぽかんと嘴を無感覚的に開け、伸びをする時は翼をひろげてするのである。悲しい時はどういう顔をするか私には分らないが、遠くから虫をつかまえて見せてやると、籠の中で羽ばたいて喜び勇んで見せる。
 水をつかわせているうち前後四度放れたが、庭の中を去らぬので捕まえることが出来た。こういう珍しい懸巣は再び手にはいるまいと思い、きき羽根を三四本剪って置いた。はじめは小鳥を手に握ることが出来なかった私も、この頃では辷らぬように旨くつかむことが出来るようになった。何だか神聖なものを涜すような気がしてならぬ。触ってならぬものに触る不思議な遠慮を感じるのである。鵯などは手にそっと握って庭の中を持って歩いて、蜘蛛や梅擬の実などを喰べさせているが、放したら狎れていても子飼いでないから逃げるであろう、懸巣は赤裸の時分からそだてたので外部の生活を知らないから、放れても餌につくけれど、子飼いでない鳥はそ…

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