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探検実記 地中の秘密
たんけんじっき ちちゅうのひみつ
作品ID53672
副題01 蛮勇の力
01 ばんゆうのちから
著者江見 水蔭
文字遣い旧字旧仮名
底本 「地中の秘密 探檢實記」 博文館
1902(明治42)年5月25日
入力者岡山勝美
校正者岡村和彦
公開 / 更新2019-08-12 / 2019-07-30
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

――氷川社内の一小破片――それが抑もの初採集――日本先住民は大疑問――余は勞働に耐え得る健康を有す――

 誰でも知つて居なければならぬ事を、然う誰でも知らずに居る大問題がある。自分も知らぬ者の一人で有つた、それは日本に於ける石器時代住民に就てゞある。
 明治三十五年の夏であつた。我が品川の住居から遠くもあらぬ桐ヶ谷の村、其所に在る氷川神社の境内に、瀧と名に呼ぶも如何であるが、一日の暑を避けるに適して居る靜地に、清水の人造瀧が懸つて居るので、家族と共に能く遊びに行つて居たが、其時に、今は故人の谷活東子が、畑の中から土器の破片を一箇拾ひ出して、余に示した。
 まさか余は、摺鉢の破片かとも問はなかつた。が、それは埴輪の破片だらうと言うて問うて見た。
 活東子は鼻を蠢めかして『いや、之は、埴輪よりずツと古い時代の遺物です。石器時代の土器の破片です』と説明した。『すると、あの石の斧や石の鏃や、あれ等と同時代の製作ですか』と聞いて見ると。『然うです、三千年前のコロボツクル人種の遺物です。此土器の他に、未だ種々の品が有るのですが、土偶なんか別して珍品です』と答へた。
『それでは、野見宿禰が獻言して造り出した埴輪土偶とは別に、既に三千年前の太古に於て、土偶が作られて有つたのですね』
『然うです、それ等は皆コロボツクルの手に成つたのです』
 余は、コロボツクルの名は、曾て耳に入れて居た。同時に人類學者として坪井博士の居られる事も知つて居た。けれども、日本に於ける石器時代に就ては、全く注意を拂はずに居たのであつた。
 のみならず、いくら注意を拂つても、却々我々の手に――其遺物の一破片でも――觸れる事は難かしからうと考へて居たのが、斯う、容易に發見せられて見ると、大いに趣味を感ぜずんばあらずである。
『這んな處にでも君、遺物が有るですか』
『有りますとも、第一、品川の近くでは有名な權現臺といふ處が有ります。其所なんぞは大變です、這んな破片は山の樣に積んで有ります』
『君が斯う如何もコロボツクル通とは知らなかつたです。何時の間に研究したのですか』
『それは友人に水谷幻花といふのが有ります。此人に連れられて、東京近郊は能く表面採集に歩きました』
 話を聞いて見ると、如何にも面白さうなので、つい/\魔道に引入れられて了つた。抑も此氷川の境内で拾つた一破片(今でも保存してあるが)これが地中の秘密を探り始めた最初の鍵で、余が石器時代の研究を思ひ立つた動機とはなつたのだ。
 其後、帝室博物館に行つて[#「行つて」はママ]陳列品を一見し、それから水谷氏と交際を結ぶ樣になり、氏の採集品を一見し、個人の力を以て帝室博物館以上の採集を成し得る事を知り。坪井博士や八木氏等の著書、東京人類學會雜誌及び考古界等を讀み、又、水谷、谷、栗島諸氏と各所の遺跡を發掘するに至つて、益々趣味を感じて來た。いくらか分…

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