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最近欧米に於ける財政経済事情
さいきんおうべいにおけるざいせいけいざいじじょう |
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作品ID | 53683 |
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著者 | 井上 準之助 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「教化資料第六輯 最近歐米に於ける財政經濟事情」 教化團體聯合会 1924(大正13)年10月14日 |
入力者 | 田辺浩昭 |
校正者 | 小林繁雄 |
公開 / 更新 | 2011-09-15 / 2014-09-16 |
長さの目安 | 約 20 ページ(500字/頁で計算) |
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例言
本編は大正十三年九月一日芝公園協調会館に開催の教化団体聯合会主催震災記念国力振興大講演会に於ける前大蔵大臣井上準之助氏の講演速記を謄写したものである。
[#改丁]
私は九ヶ月間の時日に世界を一周致しまして、数日前に帰つて参つたのでありますが、其間に外国から日本を見る機会が多かつたのであります。従つて種々の考へが其間に浮びましたから、それを今日諸君の前に申上げて見たいと思ふのであります。さう云ふ考へは、総て結論を持つて御話するのが道でありますが、実は帰りますと即刻、此演説をする様に依頼を受けたのでありまして、従つて考へが多くしてそれに対する私の結論が少ない様な恨みもありますが、それは予め御承知を願つて置きます。それから人が自己の生活して居る環境を離れて、其自己を見ますると、感じの程度が少しく平準を失ふ様な事が無いでもない。或は私もさう云ふ弊害に陥つて居るかも知れませぬから、其辺は加減して御聴取り願つて置きたいのであります。
日本を一歩踏み出しまして、何人も第一に気附きます事は、日本は国が狭くて、人間が多過ぎると云ふ事であります。第二には非常に天恵の薄い国であると云ふ事を感ずるのであります。日本の国体と云ひ、吾々の家族制度と云ひ、是は吾々の最も誇りとする所でありまして、恐らく此の点に於ては世界に秀でたる国であらうと思ふのです。併し乍ら物質的に日本を見ますと、日本位天恵に乏しい国は無いのであります。第一に世界各国何れの所に行きましても、千里の沃野が耕やされずに捨てられてあると云ふ様な場所が幾らもあるのであります。又そこには石炭山の非常に立派なものがあり、そこには石油坑があり、そこには鉄山があると云ふ様な訳でありますが、日本には斯かる物質的に世界に誇り得るものは無いのであります。况んや日本は面積の割合に耕し得る地所が非常に狭い。仮りに天恵の乏しい国と比較して見ましても、伊太利の如きは最も天恵の乏しい国と云はれて居りますが、其北部には日本よりは多く耕し得る沃野があるのです。又西班牙も瘠せた所として有名ですが、西班牙には立派な鉱物があると云ふ様に、天恵の点で比較すると、日本は余程薄いのでありまして、物質的に申すと、日本の立国の基は、国土ではなくして、人にあると云ふ事が強く考へられるのであります。現状に於ては斯くの如くでありますが、併し今後の事を考へて見ると、一年に六十万乃至七十万の人々が増加しつゝあります。此狭い土地で現状に於てさへも多過ぎる人口が、更に今後増加するとしたならば、之を一体如何に解決すべきかと云ふ事は、日本から一歩外国に踏出しますると、一層感じを深くするのであります。然らば其解決の道に就て、従来唱へられました色々の方法を考へて見ますると、殆んど実効を挙げ得る案は無いのであります。それに就て私の海外で感じた…